<南風>諦めない


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 「わたしは、ダニエル・ブレイク」という話題の映画を観(み)ました。2010年にイギリスで誕生したキャメロン保守党政権が社会保障費を削減したため、「持たざる者」が人として扱われず、誇りや生きる意欲さえ奪われていく様子が描かれています。

 初老の男性ダニエルは亡くなった妻を大切に想(おも)う実直な職人で、心臓発作で医師から就労を禁止されますが、生活保護の申請に行った役所では就労可能と判定され、給付が受けられなくなります。そのような役所の理不尽な対応にあっても、何度も足を運び真っ当に訴え続ける彼の姿が不憫(ふびん)で胸が苦しくなります。

 他方、2人の子を持つシングルマザーのケイティもアパートを追い出されて郊外の公営住宅に引っ越してきます。しかし、役所での面談時間に遅れたことで母子手当を打ち切られます。こんなことを理由に、と役人に必死に訴えますが、福祉予算削減ありきの政策の中で、ルールに従わない、反抗的だ、という一方的な理由で命綱を断たれてしまいます。

 主人公たちは、社会的弱者になった途端に社会から弾き出され、訴える手立てを奪われ、理不尽に打ちのめされ、やがて生きる意欲を削がれて社会に絶望していきます。

 このように、心ない「国の制度」によって人間の尊厳が奪われていく様子がリアルに描かれた映画を観ながら、近い将来日本でも同じようなことになるのではないかと不安に襲われました。あらゆる制度が一人ひとりのために存在し、その人のために誠実に運用され、どのような境遇の者も等しく尊重される、そんな社会で誰もが生きていけたら。その実現には、私たち自身が、制度を作り運用する「政治」に対し責任を持って向き合い、声を発信し続けなければなりません。決して諦めることなく。
(秋吉晴子、しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄代表)