コラム「南風」 「食の本土化」と肥満


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 人類の共通の祖先は、約700万年前にアフリカで誕生しました。狩猟生活を営み、肉食中心です。やがて彼らはアフリカを旅立ち、約1万年前に農耕を始めます。700万年の歴史の中で、農耕で食料を得ているのはわずか1万年。アラスカの氷の上に住むイヌイットは、現在でも生肉を主食にしています。

 沖縄では、1万8千年前ごろに「港川人」が住んでいました。遺跡からはシカやイノシシの骨が多数発掘されています。本格的な農耕社会が成立したのは12世紀ごろで、7、8世紀ごろまでは狩猟採集生活が続いていました。食料資源が豊富で、農耕に頼らなくても生活が安定していたのです。
 沖縄とは違い、本土では3世紀に農耕社会が確立しました。しかし、仏教の伝来や、肉食を“ケガレ”とする思想の影響もあり、動物の殺生や肉食を禁じる法令がたびたび出されます。こうして肉食が忌避され、穀物・根菜類中心の食文化が形成されました。
 対して沖縄では、琉球王朝時代に養豚が盛んになり、ヤギも食べていました。以来、豚肉食の文化が600年以上も続くのです。
 本土の人に比べ、肉をたくさん食べていた沖縄の人は長寿でした。しかし戦後になると、「食の本土化」が急速に進みます。フールー(民家の豚小屋)が廃止され、チーイリチー(野菜などを豚の血で炒めたもの)やラードも敬遠されました。近年の総務省統計(51自治体対象)では、那覇市の豚肉と牛肉の消費量はともに44位。それほど、沖縄での肉食は減りました。
 それなのに肥満や糖尿病が増え、男性の都道府県別平均寿命の順位も下がったのはなぜでしょう? その原因は、「肉食」や「食の欧米化」ではありません。今、皆さんが食べているのが琉球豚料理ではなく、ヘルシーなイメージのある和食だからなのです。
(渡辺信幸(わたなべのぶゆき)、こくらクリニック院長)