prime

今も続く旧盆行事、内容は変化 実状あわせ祖霊もてなしを<知って納得、沖縄の盆行事>下


今も続く旧盆行事、内容は変化 実状あわせ祖霊もてなしを<知って納得、沖縄の盆行事>下 【写真(1)】エイサーの道ジュネーには、祖霊を送るとともにヤナムンを集落内から追い払う意味もある
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

盆の芸能

 盆の期間中、沖縄県内ではエイサーやアンガマ、獅子舞など、さまざまな芸能を見ることができる。

 日本の念仏踊りに起源をもつとされるエイサーは県内各地に分布し、大太鼓や締太鼓を打ち鳴らしつつ踊るもののほか、パーランクー(片面張りの小型の太鼓)を中心としたもの、鳴物を用いず手踊りで構成されるものなど、その芸態はバラエティーに富んでいる。地域の青年らが勇壮なエイサーの演舞を披露しながら集落内の通りを練り歩く道ジュネーは、祖霊をあの世へとお送りするとともに、盆に乗じてこの世に出現したヤナムン(悪霊、餓鬼の類)を太鼓など鳴物の大きな音によって集落内から追い払う意味もある【写真(1)】。そのため、道ジュネーは本来ウークイの晩に行われるものだったようだが、エイサー人気の高まりなどを背景に、近年では盆の期間中は連日昼夜を問わずに行う地域も多い。

 八重山地域のアンガマも地域の青年たちによって演じられる芸能で、あの世から訪れた精霊を表すとされるウシュマイ(翁)とンミー(媼)がファーマー(子孫)らを従えて集落内の家々を訪ね、仏壇を拝したあと歌や踊りを披露し、見物客とウシュマイ、ンミーとの間でアンガマムニとよばれる裏声を用いた滑稽な問答が繰り広げられる。

 また、ウークイの日の晩やその翌日に獅子舞を行う地域もあり、これは、霊獣である獅子の威力により盆が済んでも現世に滞留するヤナムンを払うためのものとされる。八重山各地でウークイの翌日に行われるイタシキバラの獅子舞などは、その代表的なものである。

なくなる地域差

 世代を超えて長く受け継がれる中で、沖縄の盆行事はその時々の人々の生活に即しつつさまざまな面で変化を遂げてきた。そして盆は現在も盛んな行事であるだけに、こうした変化は今も確実に続いている。

 中でも供物については変化が著しく、例えば祖霊の杖とされるグーサンウージはサトウキビ農家の減少などを背景に省略する家庭が多くなり、県内でパイナップル栽培が盛んになった沖縄戦後は、形がよく似ていることからアダンの実に代わってパイナップルが盆の供物として定番化した。リンゴやナシ、オレンジ、メロンといった県外や国外産の果物が沖縄で盆の供物の主流となったのも、当然ながら近年のことである。

 また、祖霊が足を洗うのに用いるとされるソーローホーチや祖霊用の箸であるソーローメーシは、材料となるメドハギの自生する野山の減少に伴い、用意する家庭も随分と少なくなった。他にも、かつてウンケーには迎え火として門前でトゥブシ(たいまつ)などを焚いたが、最近はろうそくで代用されるほか、火は危ないし門灯も明るいからとの理由で迎え火自体を省略する家庭も多い。

 加えて、供物や儀礼の内容に地域や家庭ごとの差異があまりみられなくなったことも、近年における盆行事の変化の傾向といえる。例えば、かつては自家で栽培したものや近隣の野山で採れるものを供えていた果物類は、購入品が主流となった今日ではどの家庭でもリンゴとバナナとオレンジといったほぼ同じような品々が供えられるようになった。

【写真(2)】スーパーなどで販売されるジューバクの内容はどこもほぼ同じで、地域ごとの特徴は希薄になった

 ウークイのジューバクもかつては家ごとに特徴的な料理を詰めたものが供えられたが、近年ではスーパーや仕出し店で調達することが多くなったため、どの家庭どの地域でもほぼ変わらないものとなっている【写真(2)】。さらには、現代のウチナーンチュにはいささか不人気メニューとなってしまったジューバクをオードブルや寿司、菓子類に置き換えた家庭も多い。

 供物以外の面でも盆行事の変化は確実にみられ、かつてはウークイを早く済ませるのは祖霊を追い立てる不孝な行いであり、夜遅く行うほどよいとされたが、近頃では翌日に仕事や学校があるからといったこの世の側の都合で、まだ明るいうちにウークイを済ませて早々に盆行事を締めくくる家庭が多くなった。

これからの盆

 2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の流行拡大を契機に、沖縄の盆行事についても、従来のあり方を見直す動きがにわかに高まった。

 数ある盆の儀礼の中でも特に親戚回りを控えることは感染拡大を防ぐ上で有効とされたほか、大勢の家族や親戚が集まり、賑やかに祖霊を送るのが長年の習慣であったウークイについても、仏壇のある家と離れた場所にいる家族や親戚を動画でつないで行う「リモートウークイ」が話題となった。実際には、ウークイの様子のライブ配信に過ぎないリモートウークイ自体に儀礼上の意味は特にない。しかし、リアルタイムでウークイの雰囲気を共有するという新たな手法は、遠く離れた一家一族のつながりを深めるという点において、これからの沖縄の盆行事を考える上で示唆に富むものといえよう。

 コロナ以前とは日常生活の様式が一変した今日にあっては、適切な衛生管理を講じた上で、少人数で手際よく一連の儀礼を行うことが望まれるようになった。また、誰もが日々時間に追われ何かと慌ただしい現代社会において、何十年、何百年も前と同じように多くの時間を割いて盆の儀礼を行うことは実際無理な話であろう。

 ただ、基本的かつ伝統的な供物や儀礼の形式については大きな変更を加えずとも、現代生活に即した盆行事の実現は十分可能といえる。仏壇に飾る果物、ウンケーの夕食のジューシー、ナカヌヒーの昼食の素麺(そうめん)、ウークイの晩のジューバクやウチカビといった供物をはじめ、ウンケーやウークイといった儀礼の手順などについては従来の形式を踏まえつつ、各家庭、各人の実状に合わせて適宜工夫をしながらそれぞれの可能な範囲で心を尽くして祖霊をもてなし祀(まつ)ればよいのである。

 いずれにせよ、盆行事の本来の目的は決して家族や親戚が大勢で集い酒食を囲んで騒ぐことではなく、1年ぶりに戻られた祖霊に対する心からのウトゥイムチ(おもてなし)、供養であるという基本に立ち返り、まずは粛々と形式を整えて今年も一連の行事を執り行いたいものである。


 稲福 政斉(いなふく・まさなり) 那覇市出身。県文化財保護審議会専門委員、沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師。主な著書に「ヒヌカン・仏壇・お墓と年中行事―すぐに使える手順と知識」「『御願じょうず』なひとが知っていること」など。