有料

能登地震 耐震性能が明暗 住宅改修に過疎化の壁


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 能登半島地震では古い住宅が倒れ、高齢者の犠牲が相次いだ。新しい家は比較的被害が少なく、専門家は耐震性能の違いが明暗を分けたと語る。突き付けられたのは事前の備えの重要性、そしてその難しさ。甚大な被害を目の当たりにした今、危機感は各地に広がる。 (1面に関連)

▽意欲
 甲府市建築指導課の望月一浩係長は1月17、18の両日、応急危険度判定をするため石川県輪島市に入った。123件を調べ85件を「危険」と判定。ほとんどが古い木造住宅だった。倒壊した古い家の隣で、あまり損傷がない新しい家も見かけた。「耐震化構造の重要性をあらためて感じた」
 日本建築防災協会などによると、耐震改修工事の費用は築年数などにより異なるが、150平方メートルほどの2階建てなら140万~210万円が相場だという。
 珠洲市は国の補助金に独自の上乗せもして最大200万円を支援。国土交通省幹部が「全国トップクラス」と評する手厚さだ。だが、2022年度の利用実績は0件などと低調が続いている。
 国交省の担当者は人口減少の弊害を指摘する。「耐震化の進捗(しんちょく)は過疎化と反比例する傾向だ。子どもが都会に出るなどして誰も家を継がないという状況ならば意欲は湧かない」

▽油断
 石川県は能登半島沖の断層が引き起こす地震の被害想定を1998年に公表後、更新してこなかった。マグニチュード(M)7・0の地震が発生するものの「ごく局地的な災害で、災害度は低い」。犠牲者や家屋被害の予測は、実際に比べ大幅に軽かった。
 東日本大震災を契機に、国は津波防災のための調査を推進。半島沖の断層が今回とほぼ同規模の地震を引き起こすという予測を14年に出している。県も津波の被害予測は改定した。
 だが地震の被害想定は国の調査委員会の「長期評価」の公表を待つことにした。見直しに向けた県の検討着手は昨年8月。結論に至る前に震災が起きた。県防災会議の部会で委員を務める金沢大の平松良浩教授(地震学)は「津波想定と同時に地震も見直していれば被害軽減につなげられたのではないか」と述べた。

▽家族
 能登半島地震後、各地の自治体には無料の耐震診断や改修費補助事業に関する住民の問い合わせが相次いでいる。
 静岡県は24年度当初予算案で補助経費を増額する方針だ。市町村とともに01年度から約2万6千戸(22年度末時点)の改修を重ねてきた。あと2年ほどで県内の耐震化率を95%に引き上げる目標を掲げる。担当者は「防災意識の高まりを逃さず、加速したい」と話す。
 長崎県は1月、緊急無料相談会を8市町で開いた。「能登半島地震で不安を感じた」と高齢者の参加が多かった。
 東京都立大の中林一樹名誉教授(都市防災)は「耐震化の促進には、国や自治体が期間限定で補助金を大幅増額すべきだ」とした上で「地方の耐震化率が低いのは高齢化のためで、都会に住む子どももお金を出し、親の家を耐震化することが重要」と指摘。「首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きた場合、被災した子どもには田舎の安全な実家が2次避難先になる」とし、公助とともに家族ぐるみの自助の連携が重要だとした。