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富田靖子と松下洸平が圧倒的な演技力 戦争のむごさ、生きる尊さ描く 「母と暮せば」沖縄公演


富田靖子と松下洸平が圧倒的な演技力 戦争のむごさ、生きる尊さ描く 「母と暮せば」沖縄公演 伸子(左・富田靖子)を見守る浩二(右・松下洸平)(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 3、4の両日に糸満市観光文化交流拠点施設シャボン玉石けんくくる糸満で行われた演劇「母と暮せば」の沖縄公演。母・福原伸子役の富田靖子と息子・福原浩二役の松下洸平が圧倒的な演技力で繰り広げる会話劇は、戦争のむごさと生きることの尊さを見る者の心に映し出した。原案は井上ひさし、脚本は畑澤聖悟、演出は栗山民也。

 米軍の原爆投下から3年がたった長崎で、助産婦だった伸子の元に原爆で亡くなった息子・浩二が現れる。楽しい思い出話の中、原爆で全てを失った現実が波のように寄せて返す。観客は何度も泣き笑いした。

 燃えながら死にゆく友、遺体を解剖された伸子の母、被爆した妊婦から生まれた肢体の不自由な子どもを「興味深い」と言った原爆傷害調査委員会、被爆の影響とみられる斑点が皮膚に現れて偏見にさられた伸子自身のことなど、会話内の原爆被害は生々しく身近だ。「神様はいない」「戦争は神の摂理ではない」。クリスチャンの伸子の言葉が、原爆も戦争も人間の仕業だと明確にした。

「母と暮せば」3日午後5時の公演後、舞台あいさつを行う松下洸平(左)と富田靖子=糸満市観光文化交流拠点施設シャボン玉石けんくくる糸満

 松下の表現力の豊かさに圧倒された。あどけない笑顔、原爆で体が焼かれた時を思い出してのたうちまわるうめき声、婚約者の結婚に嫉妬し、かなわない将来を悔しがる。踊っても足音がほとんど聞こえない、体重を感じさせない体に人間らしい感情を乗せ、死後の浩二を表現した。

 富田が終始見せた母のまなざしが胸に迫った。浩二に見せる笑顔と、息子の死に向き合う時のやつれた表情で「息子に生きていてほしい」という母の願いを痛切に表していた。

 ラストで「毎日出てきてほしい」と懇願する伸子に浩二は「いつもそばにいる」と言い、再び伸子から見えなくなる。伸子は助産婦に復帰してほしいとの浩二の願いに応じ、七つ道具をそろえ出す。助産婦という、新しい命を取り上げる仕事が生の尊さと未来への希望をつないだ。

 伊江島が舞台となったこまつ座の演劇「木の上の軍隊」の沖縄公演終了後、緊張で大泣きしたというエピソードをこまつ座のインタビューで語っていた松下。3日夜公演後の舞台あいさつで「沖縄の皆さんにどう感じてもらえるか楽しみと不安があったが、皆さんの笑顔に救われた」と安堵の表情を見せた。富田は笑顔で「一生懸命やりました。胸に届いたものがあればうれしい」と語った。

 (田吹遥子)