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岸田首相退陣へ 物価高追われ 巨額補助 金融緩和転換、賃上げ促進 デフレ完全脱却はならず


岸田首相退陣へ 物価高追われ 巨額補助 金融緩和転換、賃上げ促進 デフレ完全脱却はならず 岸田政権下での日経平均株価の推移と主な出来事
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相は3年弱の在任中のほとんどを物価高対応に追われた。ガソリン代や電気代抑制のため巨額の補助金を拠出し、家計支援のため定額減税も実施。賃上げ促進や半導体投資拡大を図った一方、日銀の金融政策の転換にも立ち会った。だが目標としたデフレからの完全脱却を宣言するには至らず、道半ばでの退場となる。(1面に関連)
 岸田首相が就任して間もない2022年2月、ロシアはウクライナに侵攻。新型コロナウイルス禍からの経済活動再開と相まって世界的な原油高や食料価格上昇をもたらした。日本は長年の大規模金融緩和が招いた円安も加わり、物価高騰に苦しんだ。
 岸田政権は電気・ガス代やガソリン代の補助に、計約10兆円もの巨額予算を投入。消費を刺激するため、1人当たり所得税などを計4万円差し引く定額減税を3兆円超の規模で実施した。経済界では今年、政権の後押しもあり、33年ぶりの大幅な賃上げがあった。
 日銀の金融政策も大きな転換点を迎えた。大規模緩和を進めた黒田東彦氏の後任として、岸田首相が日銀総裁に起用した植田和男氏は今年3月にマイナス金利政策を解除。7月には歴史的円安を背景に追加利上げを決めた。
 安全保障上の重要性が高まる半導体産業の強化も進めた。23年度までの3年間で研究開発や工場建設への助成金などに約3兆9千億円の予算を確保し、欧米などにも劣らない支援水準とした。
 これらの経済政策に対する賛否は分かれる。日経平均株価終値は、7月11日に4万2224円と史上最高値を記録。名目国内総生産(GDP)も、安倍晋三元首相が目指した600兆円に迫る。経済団体幹部は「(政策の)効果が数字に表れている」と歓迎する。
 だが、株価は最高値を付けた後の今月5日、過去最大の下落幅を記録。翌6日には最大の上げ幅となるなど乱高下した。市場には、日銀による政策の急転換が原因との見方もある。「貯蓄から投資へ」を後押ししようと今年1月に始めた新しい少額投資非課税制度(NISA)の利用者らには不安が広がった。
 物価高に賃金上昇が追い付かず、実質賃金は6月にプラス転換するまで過去最長の26カ月もの減少が続いた。これを受け、巨額の財政支援にもかかわらず個人消費は低迷している。このため「物価が持続的に下落する状況に再び戻る恐れが拭えない」(財務省幹部)として、デフレ脱却を認定できていない。
 岸田首相が看板に掲げた「新しい資本主義」にも疑問の声が絶えない。経済官庁幹部は「結局は官製賃上げとバラマキだけだった。財政を悪化させただけに終わった」と批判した。期待した支持率の本格回復には至らず、日本経済の復活を見届けることのないまま岸田首相は官邸を去る。