若い世代の自死率の高止まりが続く中、死を望む人のサインに気づき、生きる意欲を支える「ゲートキーパー」を担う人の輪が広がっている。奈良大(奈良市)心理学科のゼミでは、学生らが自死予防を学びながらゲートキーパーの役割も習得している。太田仁教授(68)は「絶望から救うことができる人を若い層にも育て、現状を打開したい」と願う。
ゼミでゲートキーパー養成
ゼミでは「若者のさまざまな傷つき体験」を軸に、トラウマの克服法や自死を防ぐ支援策を学ぶ。太田教授は「『死にたい』の先には、『死にたいほど苦しい。でも、生きたい』というSOSが続いている」と説く。学生の中には、学びを生かしてアルバイト仲間のSOSに気づき、必要な支援につなげた人もいるという。
価値
活動の背景には、太田教授が抱く危機感がある。教授は2022年9月、奈良大を含む複数の大学で学生557人を対象に「生きる意欲」についてアンケートを実施した。結果、「自分に価値はない」「自分の代わりはいくらでもいる」との項目を選択した学生は約半数に上った。多くの若者が、生きる意味とその価値を見失っている実情が浮かび上がった。
否定
ゼミ生の中には、死を望む若者に共感を抱く人もいる。3年生の女子学生(21)は「ふとした時に、死にたいという思いに駆られる気持ちは分かる」と打ち明ける。
中学生の頃に性的虐待に遭ったが、被害を認識できないまま自傷行為を繰り返す日々が続いた。カウンセラーらと接するうちに、心の傷を癒やす職業に関わりたいと思い、心理学科に進学。傷ついた若者の心理を学びながら、自分自身の心の傷も解きほぐしてきた。
これまで信頼できる相手に「死にたい」との思いを打ち明けたこともあったが、「そんなことは言うもんじゃない」と否定されることが多かった。そうした反応をされ「自分は他の人と住む世界が違うんだ」と絶望を強めてきたと語った。
寄り添う
「『どうして』と歩み寄る言葉が欲しかったんだと思う」と振り返る。自分のように傷ついた経験を持つ若者は多いと実感している。
太田教授によると、ショッキングな打ち明けに対し、同世代の若者でも「そんなこと言わないで」と遮断してしまうケースは多い。一歩立ち止まり「どうしてそう思うの」と原因にアクセスする反応が望ましいという。「寄り添う声がけ一つで救われる人もいる」と強調した。