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<メディア時評・相次ぐ展示・閣議決定>隠蔽・封殺・強弁 如実に 一方的見解に抗う報道を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍政権の特徴の1つに「閣議決定」が挙げられる。量と質の両面から、歴代の政権との際立った違いがみられるからだ。それは「決める政治」として実行力がある証しでもあろうが、一方で中身をみると疑問符がつくものも少なくない。後者の多くは、主として国会内での口頭質問の機会が少ない野党側からの質問主意書に対する答弁書で、かつては年間100から200本だったものが、2006年以降急増し、現在は千本前後で推移している。「(公邸に幽霊が出るという噂は)承知していない」(2013・5・24)といった、わざわざ閣議決定する意味を疑うものまであるが、いったい何が従来と違い、どこに問題があるのかを見ていきたい。

閣議案件

 政府の重要な意思決定は「閣議」で決せられる。日本の場合、法律のほとんどは閣法と呼ばれる政府提出の法案で、これらは各省庁が起案し、最終的に閣議で了承され国会に提出される運びとなる。もちろん予算案や条例案、政令(内閣の制定する命令)の決定もそうだし、そのほか政府方針は原則「閣議決定」というかたちで正式に確定するわけだ。

 この閣議については内閣法4条1項で規定されているが、会議の手続きまでは明文での定めはなく、慣行によって行われている。なお、本来は主務大臣の権限で決定できる事案でも、国際社会全体への影響が大きいものなどは、閣議に諮って内閣全体の了解をとることになっており、これは「閣議了解」と呼ばれている。

 閣議案件としては、一般に以下の区分がある(官邸ウエブサイト参考)。

〈一般案件〉国政に関する基本的重要事項で、内閣としての意思決定が必要であるもの。高級官僚人事を含む。

〈国会提出案件〉法律に基づき内閣として国会に提出・報告するもの。質問主意書(国会法74・75条)に対する答弁書を含む。

〈法律・条約の公布、法律案、政令〉国会で成立した法律・条約の公布や、政令を決定し、天皇に対する内閣の助言と承認を行うもの(憲法7条)や、閣法を立案し国会に提出するもの。

〈報告〉国政に関する調査結果、審議会答申などを報告するもの。

〈配布〉閣議席上に資料を配付するもの。

 これら閣議の内容は議事録が公開されているが、たとえば1年前の19年1月25日の閣議配布資料として「『桜を見る会』開催要領」とあるものの、項目があるのみで実際の資料が見られるわけではない。あるいは、官邸サイトにおいて主な閣議決定として掲出されているものは、昨19年では56件であるが、むしろ新聞報道などで話題になるのは、ここに挙げられたもの以外の決定事項だ。

「珍」決定

 報道やネット上で話題となっている、「珍」決定の中身を新しいものから少し拾ってみる。答弁自体は論評の価値がないものが多いが、そうした答弁が出される背景は相当に深刻だ。なぜなら、昨今の政治の特徴である「隠蔽・封殺・強弁」を如実に表すものだからだ。

(1)反社会的勢力の定義はできない(19・12・10)「あらかじめ限定的かつ統一的に定義することは困難である」と、従来の一般的定義を否定することで、首相主催の桜を見る会の追及逃れを意図したとみられる。

(2)報告書を踏まえた質問への回答は控える(19・6・18)老後の資産形成で2千万円が必要になるとした金融庁の審議会報告書について、なかったことにしたい政府は、諮問した大臣自身が報告書を受け取らないうえに、報告書自体を撤回させたが、さらに関連質問には一切答えない姿勢を示すことで、当該問題の追及をシャットアウトする意思を示した。

(3)面会の確認は困難(18・5・18)加計学園問題で首相秘書官と愛媛県関係者の官邸での面談内容を問われた政府が、事実確認に応じることなく、面会自体の有無も調査しないことを決め、幕引きを図ったものだ。

(4)首相夫人は私人(17・2・27)森友学園問題に関連し、安倍明恵総理夫人の行動・発言の確認を求めたことに対し「お尋ねは、特定の個人が行った私的な行為に関するものであり、政府としてお答えする立場にない」と回答した。同じ答弁書で「総理公務補助」として公務員が勤務する一方で、一方的に私人宣言をすることにより一切の責任を回避させる意図が見える。

 こうした強弁で、首相や主要閣僚の失言や無知をことごとく言い繕う傾向も強い。それ自体は大した問題ではないものも含まれるが、これらはまさに「批判や異論の封殺」の体質そのものである。

・セクシーには考え方が魅力的との意味がある(19・10・15)小泉進次郎環境相の国際会議でのセクシー発言への批判に対する擁護。

・現行法令においてセクハラ罪という罪は存在しない(18・5・18)麻生太郎財務大臣のセクハラ軽視発言を追認することで擁護。

・そもそもには「どだい」という意味がある(17・5・12)首相の口癖でもある「そもそも」について、国会で「基本的に」の意味があると発言したことに対し擁護。

・島尻氏は詰まっただけ(16・2・19)島尻安伊子沖縄北方担当相が記者会見で歯舞を読めなかったことに関し、「発言に詰まっただけで読み方を知らないという事実はない」と擁護。

・首相はポツダム宣言を当然読んでいる(15・6・2)5月国会で「宣言をつまびらかに読んでいない」と答弁して非難を浴びたことから、わざわざ「読んでいる」ことを確認し擁護。

 これらは、もっぱら官邸内では高度な政治的判断のもと、何らかの整合性が取れているのであろうが、社会一般的にはわざわざ擁護する意味は不明だ。

憲法解釈変更

 ただし、あえて言えば実害の少ない「笑い話」で済むレベルともいえる。むしろより重大な問題を孕(はら)むのが「権限外」の決定だ。憲法解釈を閣議決定することも少なくない。集団的自衛権を政府として初めて容認したのも閣議決定だし、今般の中東への自衛隊派遣も、国会審議は全く経ていない。

・集団的自衛権は憲法9条の下で許容される自衛の措置(14・7・1)

・自衛隊は国際法上、一般的には軍隊と扱われる(15・4・3)首相が自衛隊を「わが軍」と発言したことを受けての決定。

・憲法9条は一切の核兵器の保有および使用を禁止しているわけではない(16・4・1)

・中東地域へ「情報収集活動」のため自衛隊派遣(19・12・27)

 さらに憲法改正や教育問題でも、憲法解釈を一方的に示すことが続いている。

・教育勅語は憲法や教育基本法に反しない形で教材として用いることまで否定されることではない(17・3・31)

・改憲発言は自民党総裁としての発言であって、総理の職務としておこなわれたものではなく、立法府の軽視に当たらない(17・5・16)

 昨年末、毎日新聞の首相番記者の投稿が一部で話題になった。首相と担当記者の懇談会に、毎日新聞が社の方針として連続して欠席していることについてである。政府が一方的見解を表明し、それがすんなりと受け入れられてしまう空気に抗(あらが)う力は、こうしたことから始まると、年の初めに期待したい。

(山田健太、専修大学教授・言論法)