「戦前に似てきている」 コロナ口実に異論排除の動き


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看護師2人が感染した那覇市立病院。看護師らは感染の不安と同時に孤独感とも戦っている(写真と本文は関係ありません)

 「人の目が気になって実家にも帰れない」。南部の病院で勤務する看護師の女性(27)はため息をついた。

 新型コロナウイルス感染者の増加で、女性が勤務する病院では職場環境が急激に悪化した。5人程度の新型コロナ感染者を受け入れているが、支給されるマスクは1週間に1枚のみ。使い捨てのマスクを洗い、繰り返し何度も使っている。医療用の手袋も手に入らないため、インターネット通販などから自分で調達する。

 感染リスクを避けるため、女性は家族や友人と会うのを控え、極力出歩かないようにしている。1人暮らしの自宅と職場を往復する単調な毎日。感染の恐怖と孤立感が女性をさらに追い詰める。「周囲は私が看護師であることを知っている。誰かと会うと『コロナにかかっているのでは』と疑われているようで息苦しい」

 15人ほどの感染者を受け入れる中部の病院で働く男性看護師(29)は、自身が医療従事者であることで、家族がいわれのない「差別」を受けることがないように別居も考えている。男性は「終わりが見えないつらさがある」と吐露する。

 3月、海外から帰国後に新型コロナの感染が判明した少女について、インターネット上では個人を特定しようとしたり、中傷したりする書き込みが相次いだ。少女へのバッシングはエスカレートし、県に「名前や学校を教えろ」と脅迫まがいの電話まで寄せられた。緊急事態宣言が発出される前後から、互いの行動をとがめあうような空気が広がっている。

 一方で、安倍晋三首相は会見でたびたびコロナ禍を「国難」と表現する。「国民一丸となって」と国の方針への同調をうながす強いフレーズを繰り返す。

「戦前の雰囲気と似てきている」と警戒感を示す大田朝章弁護士

 8歳の時、県外の疎開先で終戦を迎えた大田朝章弁護士(82)は「戦前の雰囲気と似てきている」と警戒感を示す。戦時下の沖縄で通っていた小学校の校庭で見た光景は今でも覚えている。「校長先生が生徒の前で『鬼畜米英』と敵国を罵倒していた。他者への憎しみをあおり、異論を許さない雰囲気があった」

 大田さんは県外に疎開して戦火を逃れたが、徴兵された兄は命を落とした。全体主義が招いた戦争の悲劇を経験し、戦後、法律の道に進み裁判官に。平和主義をうたう日本国憲法の尊さを痛感し、戦前回帰の動きには強い抵抗感がある。

 「コロナという災厄を口実にして異論を排除する雰囲気ができつつある。日本国憲法が保障する人権、民主主義を守り抜くのが私たちの役目だ」。戦争を知る法律家はこう語ると、ぎゅっと拳を握った。(安里洋輔)