リーマン・ショック10年と沖縄経済 景気回復、観光けん引 産業、雇用の充実課題


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 米証券大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界的な金融危機を招いたリーマン・ショックから15日で10年となった。リーマン・ショックの影響は日本にも波及し、県内でも景況が悪化した。景気の後退局面で沖縄を訪れる観光客数も減少し、ホテルの宿泊客室稼働率も下落した。リーマンショックからの県経済の状況を、さまざまな指標を交えながら紹介する。

<景気動向>景況感が改善、高水準 日銀「量から質へ改善を」

 日本銀行那覇支店が県内企業を対象に四半期ごとに実施している企業短期経済観測調査(短観)では、企業の景況感を示す全産業の業況判断指数(DI)が、リーマン・ショックの影響が波及した2009年4~6月期と10~12月期にマイナス21を記録した。4~6月期は1977年以来の低水準だったが、全国の日銀支店32支店の中では最も高かった。

 リーマン・ショックは特に製造業に大きな影響を与え、全国では09年1~3月期にマイナス46を記録するなど大きく落ち込んだ。那覇支店の桑原康二支店長は当時の状況について「沖縄は産業構造として製造業が少ないため、影響は受けたが全国に比べれば少なかったと言える」と振り返る。

 リーマン後も、11年3月の東日本大震災によって観光需要が大きく落ち込んだことから11年4~6月期にマイナス19を記録した。しかし、その後は着実に上昇し、12年4~6月期以降は一貫してプラスになっている。政府が観光立国に向けて注力した追い風も受け、16年1~3月期は過去最高のプラス46を記録した。18年4~6月期もプラス37と25四半期連続でプラスになり、バブル期に並び県内過去最長となった。

 全国のDIも13年以降はプラスを続けているが、20以下の水準にとどまっている。桑原支店長は「結果的に、沖縄の産業構造が本土と違うために、景気拡大が全国に比べてより強く表れている。ただ、観光業は災害など外的要因にもろい側面があるので、景気が良く追い風が吹いている今のうちに量から質への体質改善を進める必要がある」と話した。

<県内失業率>雇用好転も非正規増

 県内の有効求人倍率はリーマンショック翌年の09年度、前年より0・07ポイント低い0・28倍に下落した。10、11年度はほぼ横ばいの0・31倍が続き、東日本大震災の翌年12年度は0・42倍に上昇した。観光客の増加に伴ってホテルが建ち、建設業や飲食業、コンビニエンスストアが増えるなど働く場所が広がった。有効求人倍率は右肩上がりに増加し、16年度は1968年度の統計開始以来、初の1倍台となる1・0倍を記録した。17年度は1・13倍になった。全国は17年度に1・54倍で差はあるが、ほぼ同じ成長線を描いている。

 有効求人倍率の全体が上がる半面で、正社員に限った正社員有効求人倍率は全国と差が広がった。09年度は全国0・26倍、沖縄は0・12倍だったが、17年度は全国1・03倍に比べて沖縄は0・49倍になった。

 沖縄労働局の村上優作職業安定部長は「求人の約7割が非正規で、雇用の質を改善する余地がある」と指摘する。今後は「観光以外の産業が実を開けば、沖縄はもう少し前に進めるのではないか」と語った。

<入域客数の拡大>訪日客が後押し

 リーマン・ショックの翌年2009年の入域観光客数は、対前年比6・5%減の565万800人、観光収入は同10・5%減の3904億円と落ち込んだ。同年には新型インフルエンザが世界で流行した。

 琉球大学国際地域創造学部の下地芳郎教授は「リーマン・ショックだけが直接観光に大打撃をもたらしたという印象はない。インフルエンザ流行など、さまざまな要因が重なったのだろう」と分析する。

 沖縄ツーリストの東良和会長は「リーマン・ショックで社員旅行が減った影響はあっただろう」とした上で、「10年に日本航空が破綻したことの影響の方が大きかった」と説明する。「提供座席数がかなり減った。提供座席数は08年にピークを迎えたが、元に戻るのに5年はかかった」と振り返った。

 10年には入域観光客数・観光収入ともに回復を見せたが、11年の東日本大震災による旅行自粛などで再び落ち込んだ。

 その後、新石垣空港の開港やクルーズ船の大型化など受け入れ状況が大きく変化し、観光客数は右肩上がりが続いている。

 特に伸びが大きいのは外国人観光客だ。13年には円安による旅行需要増加や、中国人観光客向け「数次査証(ビザ)」の発給要件の緩和などがあり、12年から現在まで外国客は増え続けている。

<ホテル稼働率>震災後、上昇続く

 リーマン・ショックによる世界的な金融危機が発生した2008年の直後から、県内ホテルの宿泊客室稼働率も下落した。りゅうぎん総合研究所のまとめによると、07年に78・3%だった稼働率は08年に75・7%となり、10年には67・7%まで下がった。

 08年前後は沖縄を訪れる観光客の9割以上を国内客が占めており、りゅうぎん総研は「リーマン・ショックによる景気の後退で賃金が低下し、生活の中でぜいたくな行為である旅行やレジャーが控えられたのだろう」と分析する。

 県内ホテルの稼働率は東日本大震災があった11年も68%と低い水準となった。各ホテルが稼働率の回復に重点を置いたことから、宿泊客室単価も13年まで下落を続けた。

 アジアの経済成長や航空路線の拡充などによって訪日外国客が増加を続けたことで、稼働率や客室単価は回復を続けている。近年の稼働率は「予約が取りにくい水準」と言われる8割前後まで上昇している。ホテルが収益確保などを目的に客室単価を高めに設定する動きも出てきている。