県民の熱意が政治を動かした 元山さんのハンストで事態急展開 辺野古県民投票


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県民投票条例の改正について与野党がまとまったことを玉城デニー知事に電話で報告する新里米吉議長=24日午後9時54分、県議会

 自民党が条例改正に譲歩したことで、県民投票の全市町村での実施が確実となった。投票を実施しないとしてきた5市長も県議会の全会一致であれば、予算執行に前向きな姿勢を示している。県民全てが等しく投票できる県民投票を実現させたのは、条例を直接請求した「辺野古」県民投票の会の思いや市民からの働き掛けが大きかった。

 この間、県民投票の事務予算が市議会で否決された沖縄、うるま、宜野湾、宮古島、石垣の5市長は予算を原案執行しない考えを表明。県は、市長には事務を行う「義務」があるとして、技術的助言や勧告を行い、玉城デニー知事や謝花喜一郎副知事も足を運んで市長へ協力の要請を重ねた。行政法や地方自治の専門家からは、参政権を奪うことの違憲性や違法性、その悪質さを指摘する意見も相次いだ。

 間接民主制で選ばれた首長が直接民主制を否定する事態に、「なぜ住民の投票権を奪うのか」と市民から市長の責任を追及する声が高まった。しかし、市長は方針を転換することはなく、5市抜きの県民投票が現実味を帯びていた。

 事態が急展開したのは、県民投票条例を直接請求した「辺野古」県民投票の会の代表で、大学院生の元山仁士郎さんが15日に始めた宜野湾市役所前での24時間のハンガーストライキだった。投票を実施しない市長への抗議の意思を示す元山さんのストライキは19日まで続き、同時に集めた全県実施を求める請願には5千人が署名した。

 県民投票の会も県の幹部に粘り強く掛け合った。元山さんの思いに呼応するように人々の思いが政治を動かした。公明は、実施しないとしている5市長らが協力できるよう賛成、反対に「どちらとも言えない」を加えた3択案を自民に働き掛け、条例改正で全会一致への道筋を開いた。

 一連の出来事は、政治の流れを決めるのは、政治家でも行政でもなく、主権者である市民なのだということを改めて示した。

 一方で賛成、反対の2択でなければ、はっきりと民意が示されないという主張も筋が通っている。3択案への変更が、市長が事務を実施しない免責にはできないことも明らかだ。今後、全市町村実施の実現に向け、政治や行政がその役割を果たすことが求められている。
(中村万里子)