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【寄稿】小西誠 「台湾有事」の大規模演習 キーン・ソード25 戦争に繋がる「実働」 なし崩しの対中国「連合軍」


【寄稿】小西誠 「台湾有事」の大規模演習 キーン・ソード25 戦争に繋がる「実働」 なし崩しの対中国「連合軍」 2022年のキーン・ソード訓練。伊仙町総合グラウンドで訓練を終えてMV22オスプレイに乗り込む米海兵隊員=2022年11月18日、鹿児島県伊仙町
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 軍隊の演習は、単なる訓練ではない。ウクライナ戦争も前年の両国国境でのロシアの演習から始まり、戦争へと発展した。戦史上でも実動演習が戦争へと繋(つな)がった例は多い(特に国境線の演習)。

 自衛隊は今秋、対中国戦争を想定した幾つもの演習を行っている。1つが「南西諸島有事」を想定する陸自10万人動員(総人員の3分2)の「陸演」で、9月から11月下旬まで九州の演習場を南西諸島に見立てて行っている。陸自大演習は、連動し全自衛隊と米軍の日米共同統合演習(キーン・ソード25、10月23日~11月1日)に引き継がれる。

 性格を明確化

 「キーン・ソード」は、2年に一度実動演習として行われる日米統合演習だが、従来の演習との大きな違いは、先島諸島―琉球列島を中心に九州に広がる「台湾海峡有事」の演習としての性格を明確化したことだ。

 統合幕僚監部の報道発表は、演習の目的として「強固な日米同盟の下、日米の即応態勢及び相互運用性を向上。自衛隊と米軍は力による一方的な現状変更の試みは断じて許さないという強い意志の下、あらゆる事態に対応するための抑止力・対処力を強化」と謳(うた)い、演習がただの訓練ではないことを宣告する。

 「キーン・ソード25」は、その規模でも最大だ。参加部隊は、自衛隊に加え、インド太平洋軍―太平洋陸軍・艦隊・空軍・海兵隊・在日米軍ほか、同志国のオーストラリア軍及びカナダ軍まで参加。つまり、なし崩しの対中国「連合軍」である。参加部隊は、自衛隊約3万1千名、米軍約1万2千名他、日米艦艇約40隻、航空機約370機。

 問題は演習内容だ。発表では「共同統合対艦戦闘、統合水陸両用作戦、島嶼(とうしょ)防衛等」とあるが、1つには演習の軸に沖縄島・石垣島・宮古島での、全国の地対艦ミサイル部隊などを動員した対艦戦闘訓練が位置づけられていることだ。沖縄島には、東北方面隊、石垣島と宮古島には、北部方面隊の地対艦ミサイル部隊がそれぞれ動員配置される。

 筆者は、かねがね注意喚起をしているが、沖縄等の地対艦ミサイル配備は、勝連分屯地への第7地対艦ミサイル連隊の編成・完結では終わらない。有事以前において、全国の全ての地対艦ミサイル連隊が琉球列島に配備されるのだ。実際に陸自は、奄美諸島で地対艦ミサイル連隊の全国からの集結演習を行っている。

 この演習の2つめの問題は、昨年の自衛隊統合演習に続き「特定重要拠点空港・港湾」指定による民間空港・港湾を使用した演習が行われることだ。防衛省発表では、「統合後方補給」として「米軍輸送機等により、新石垣空港を使用し米軍アセット(HIMARS)を石垣駐屯地に輸送」と明記。HIMARSとは、米海兵隊・米陸軍の対艦ロケット砲兼ミサイルだ。計画では石垣空港を始め、与那国空港、石垣港、平良港・那覇空港(滑走路復旧)他、宮崎空港等九州の空港等が使用される。

 政府は、昨年8月閣議決定の空港等の「デュアルユース」(軍民両用)を「民生利用」と言い換え軍事色を薄めようとしている。だが演習は、閣議決定でいう「島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保」、つまり琉球列島―第1列島線の制海・制空権確保のために民間空港・港湾の軍事化を狙っていることが明らかだ。

 演習の3つめの問題は、米海兵隊・米陸軍が、この統合演習に全面参加するということだ。23年11月、キャンプ・ハンセンで海兵沿岸連隊(MLR)が新編され、この部隊が琉球列島の40の島々へ展開する「遠征前方基地作戦」(EABO)が始動した。「キーン・ソード25」では、前述の「HIMARSの石垣駐屯地への輸送訓練」とともに、陸自地対艦ミサイル部隊との共同対艦戦闘訓練が行われる。米海兵隊の「台湾海峡有事」作戦の開始である。

 27年危機説

 注視すべきは、演習になんと米陸軍が本格的に参入することだ。発表では、対艦ミサイルHIMARSによる演習は、「第12沿岸海兵連隊、米陸軍第17野戦砲旅団等のHIMARS×1」(奄美等)とされている。だが奄美を始め、石垣島でもすでに米陸軍はHIMARSを展開した演習を海兵隊のEABOと一体化して行っている。この米陸軍の新たな動きを重視する必要がある(統合幕僚監部発表の「キーン・ソード23」では、米陸軍のマルチドメイン・タスクフォース[MDTF]の参入を明記。MDTFは太平洋地域に2個隊配備予定)。

 さて、この対中国演習とともに注目すべきは、最近の米軍の動きである。24年9月、米海軍作戦部長は「米海軍の戦争遂行能力のための航海計画2024」を発表し、「27年までに中国と戦争になる可能性に備えるとともに、海軍の長期的な優位性を高めるという2つの戦略的目的に向かって推進する」と提示した。またしても「27年中国の台湾侵攻説」の煽(あお)りかと思われるが、発表は米海軍の正式な運用計画だ。

 問題は、22年政府策定の安保関連3文書も「27年まで侵攻に主たる責任対処」としているように、日米の公式文書において「27年台湾海峡危機」が唱えられ始めたことだ。

 実際、この状況に呼応するかのごとく9月には、海自護衛艦「さざなみ」がオーストラリア等の艦艇を引き連れ、台湾海峡を初めて通過、中国への威嚇行動を行った。「航行の自由作戦」である。

 27年危機説の当否はともかく、この日米中の激しい軍拡競争・実動演習を阻まない限り、戦火は台湾海峡を始め、どこからでも起こりえる事態だ。

 私達に求められるのは、沖縄―琉球列島の要塞(ようさい)化を押しとどめ、このような実動演習による「戦争の威嚇」を許さないという世論を創りだすことではないか。


 小西 誠こにし・まこと) 軍事評論家、元自衛官、社会批評社社長。近著に「オキナワ島嶼戦争」「自衛隊の南西シフト」「要塞化する琉球弧」「ミサイル攻撃基地化する琉球列島」「最新データ&情報2024 日米の南西シフト」(電子ブック・ペーパーバック版)。