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野の学問に生涯尽くす <石垣繁氏を悼む>津波高志


野の学問に生涯尽くす <石垣繁氏を悼む>津波高志 「南の島の星まつり」で講演する八重山文化協会会長(当時)の石垣繁氏=2008年8月、石垣市民会館大ホール
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 八重山文化の研究に長年携わってこられた石垣繁氏が去る10日、86歳で永眠された。

 氏は1937年石垣市白保に生まれ、八重山高校卒業後、地元の小中学校や高校で教壇に立ちながら、通信教育で大学を卒業した。69年、八重山文化協会の前身である八重山郷土文化研究会を設立した。

 教職にありながら民俗や言語の研究に打ち込み、数多くの成果を公にしてきた。その集大成が『八重山諸島の稲作儀礼と民俗』(2017年、南山舎)である。

 出版後すぐにご本人から書評を依頼されたが、歌謡などの長い片仮名表記を読むのに大変苦労したことを覚えている。訃音に接し、改めて書評を読み直してみた。当時、次のように書いている。

 「本書の特徴は、宗教的あるいは呪術的な儀礼に伴う定型化された言語表現に一貫して注目していることである。その一貫性こそ、著者の持ち味であると同時に、本書の最大の長所であり、高く評価されるべき点である」

 「儀礼は視覚的に観察可能なので、よそ者にも客観的な記述が可能である。しかし、その背後にある観念や意味の部分に関しては、各場面ごとに尋ね、教えてもらうことによってしか明らかにできない。そこに、歌謡のような、儀礼に伴う定型化された言語表現が加われば、それを通してさらに豊かな意味世界を描き出すことも可能となる。本書はまさにそれを実践し、提示しているのである」

 私なりのその評価は、今でも変わらない。氏は野の学問としての民俗学に、生涯いそしまれた。そのご尽力に敬意を表しつつ、心からご冥福をお祈り申し上げる次第である。合掌。

 (琉球大学名誉教授)