大作で40年の節目 伝統組踊保存会


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乙樽(左端)が身分を偽って敵の谷茶の按司(右端)や臣下らがいる居城へ乗り込む場面=3月31日、浦添市の国立劇場おきなわ

 2時間超の大作で節目の舞台を飾った。組踊の国指定40周年を記念した伝統組踊保存会(島袋光晴会長)主催の組踊「大川敵討」(3月31日、国立劇場おきなわ)は、国指定重要無形文化財「組踊」保持者らベテランを中心に据え、変化に富んだ作品を熱演した。

 百姓から成り上がった悪逆無法な谷茶の按司(眞境名正憲)は人望厚い大川按司を攻め滅ぼし大川按司の跡継ぎ・大川の若按司(周東秋馬)を捕らえる。大川按司の忠臣・村原の比屋(親泊久玄)の妻・乙樽(海勢頭あける)は若按司を救うために谷茶城へ乗り込む。
 乙樽役の海勢頭は、敵の居城へ女一人で乗り込むことを自ら提案する場面の唱えに強い決意を込めた。谷茶の按司役の眞境名は、乙樽の美しさに引かれる様子を表情豊かに表現。避けようとする乙樽に対し、一緒になろうと迫る女好きの谷茶を、やや写実的な動きも交えつつ演じ、会場の笑いを誘った。
 間の者(まるむん)・泊役の嘉手苅林一は、乙樽が潜入した谷茶城内の様子をユーモアたっぷりの語り口で村原の比屋へ伝えた。終盤は、乙樽が若按司を助け出し、村原の比屋らが大川按司の旧臣と共に谷茶城を攻め、敵討ちを果たす。豪快な立ち回りなども披露した。
 地謡はベテランがそろい、各場面の心情を安定感のある演奏で表現した。ただ、村原の比屋が退場する際、本来は太鼓のみのところを、間違えて途中まで三線を交えた大主手事を演奏してしまったのは残念だった。また、立方の一部では、唱えの声がかすれ気味で円滑でない例もあった。
 一発勝負の本番ではいつも何が起きるか分からず、ミスやアクシデントには出演者それぞれの事情もあると思うが、観客にとっても一期一会の機会。実演家一人一人の持つ力は素晴らしいものがあるだけに、惜しまれた。組踊の魅力をできるだけ多くの人に感じてもらうためにも、一つ一つの舞台へ向けた準備や集中力を万全にしてほしいと感じた。(古堅一樹)