囃子にみなぎる緊張感 薪能「幽玄への誘い」


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「安達原」で鬼女が山伏を食おうと迫る場面=15日、浦添市の組踊公園特設舞台

 琉球新報創刊120年を記念した沖縄初の薪能「幽玄への誘い―心より心へ―」(琉球新報社、観世流・坂井清音会沖縄支部、NPO法人白翔會主催)が14、15の両日、浦添市の国立劇場おきなわと組踊公園で行われた。

能は組踊との共通点もあるが、三線が入った組踊の地謡に対し、小鼓や大鼓を主とする能の囃子(はやし)は、飾りをそぎ落とした印象で緊張感がみなぎっていた。舞台全体の展開も静と動のめりはりが利き、観客を引き込んだ。
 14日に上演された能「土蜘蛛(つちぐも)」は、源頼光(坂井音隆)の邸宅に蜘蛛の化身である僧(坂井音重)が現れる。序盤は動きが少なく厳かに進行するが、僧が千筋の糸を放ち襲いかかると一転、静けさは打ち破られる。足を踏みならしながら闘う2人。囃子のテンポが速まり場を盛り上げる。白い糸が柱や人にまつわりつき、床を埋め尽くす様子は、おどろおどろしくもあり美しくもあった。
 15日の「安達原(あだちがはら)」は、旅の山伏を家に泊めた里女(坂井音雅)が、糸車を回しながら人生のつらさを語る場面が“静”の見どころ。ゆっくり糸車を回す所作と表情が変わらない面は、かえって女の心の闇を想像させた。山伏らに約束を破られた女は怒りのあまり鬼女に姿を変え、息迫る闘いに突入。最後に山伏の法力で鬼女は消えうせ、救済される。女の感情が高ぶり鬼女に変わる部分は組踊「執心鐘入」と共通する。
 「土蜘蛛」「安達原」ともに妖怪を討伐する善悪二元論にとどまらない内容で奥深かった。土蜘蛛の精は大和朝廷に迫害された人々の霊だ。薩摩侵攻など苦難の歴史を持つ沖縄の記者としては、土蜘蛛の精に共感する部分もあった。
 薪能はもともと神事・仏事として行われてきた。かがり火をたき、自然とつながった屋外の舞台は、神秘的な雰囲気を演出する。組踊にも積極的に取り入れてはどうだろうか。沖縄の風土にも合うはずだ。
 音重は能と組踊の比較上演会を行うなど、沖縄と長年関わってきた。今回の薪能を行う意義を、沖縄戦などで犠牲になった人々への「敬虔(けいけん)な祈り」と説明。アジアを拠点に伝統芸能を発信することで「世界の人々の平和に寄与する」という壮大な夢を描く。今回鑑賞した県内の芸能関係者らがどのように自らの芸に生かし、能と琉球芸能の交流が発展していくのか注目したい。
(伊佐尚記)