若手好演、純愛描く 国立劇場「手水の縁」


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処刑されそうになった玉津(左から2人目、宮城茂雄)を助ける山戸(左端、田口博章)=4月28日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわ企画の組踊公演「手水の縁」(監修・立方指導=眞境名正憲、地謡指導=西江喜春)が4月28日、浦添市の同劇場で行われた。

琉球王府時代、御法度だった自由恋愛をテーマとした平敷屋朝敏の異色作。話題の新作組踊「聞得大君誕生」にも出演した勢いある若手の立方・地謡が中心となり、命を賭けて相手を思う若者の純愛を描いた。
 「手水の縁」の前には、春をテーマにした琉球舞踊4題が上演された。新垣悟は女性らしいしなやかな「日傘踊り」を舞った。東江裕吉は玉城靜江の振付による創作舞踊「梅の香」を披露。民謡「恋語れ」を取り入れて軽快に踊った。
 「手水の縁」は、士族の子である山戸(田口博章)が、川で美しい娘玉津(宮城茂雄)に出会う。心を奪われた山戸は、玉津に手で水をすくって飲ませてくれるよう頼み、2人に恋が芽生える。
 見どころ・聞きどころの一つは、山戸が闇夜に紛れて玉津に会いに行く「忍びの場」だ。地謡が情感あふれる「仲風節」などを歌い、2人の高まる気持ちを表した。忍びの場は名曲が続くが、箏の「瀧落し」から笛の「干瀬節」に移る部分で間違えて、甘い恋の雰囲気を一瞬乱してしまったのは惜しかった。2人の恋が世間のうわさになり、玉津の父、盛小屋の大主は部下に玉津を殺すよう命じる。死を目前にした玉津が山戸を思いやる遺言を切々と述べる場面も見せ場。神々しさすら感じる玉津の深い愛を宮城は身じろぎせず、わずかな目線の動きと唱えの抑揚で表現した。
 部下の「山口の西掟」(玉城匠)らも人間らしい味わいがあった。我が子のように育てた玉津を殺すことをためらう様子は共感を呼び心情を代弁する地謡の「東江節」も聞き応えがあった。決心した西掟が玉津の髪を直し刀を構える間の長い静寂は緊張感が漂っていた。ただ、西掟らが玉津を「我が思子」と呼ぶのを字幕で「我が子」「我が娘」と訳していたのは違和感を覚えた。「我がお嬢様」の方が分かりやすかったのではないか。
 今回、舞台前方にあった左右の柱が取り外され、観客が見やすいよう配慮されていた。一方で、若者の純愛というテーマにもかかわらず、若い観客が少なかったのは残念だった。組踊は見どころを丁寧に解説すれば、知識のない人でも楽しめる。幅広い世代に劇場に足を運んでもらうためには、一層の工夫が必要だと感じた。(伊佐尚記)