「聞得大君誕生」と「蓬莱島」京都公演 歌三線強化が奏功


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 歌舞伎女形の坂東玉三郎と県内の若手・中堅が共演する新作組踊「聞得大君(ちふぃじん)誕生」(大城立裕作)と創作舞踊「蓬莱島(ほうらいぬしま)」(構成・演出=玉三郎、振り付け=阿嘉修・新垣悟、音楽=花城英樹)が、5日から12日まで松竹の京都四條南座で上演されている。

県外での長期公演は組踊の歴史上例のないことだ。出演者は連日の舞台を乗り越え、作品と深く向き合う。大半の観客が琉球芸能を見たことのない「アウェー」で、その魅力を伝えることができるのか。7日の公演を取材した。(伊佐尚記)
 和の雰囲気が漂う南座で琉球芸能を見ると、大和の文化とは異なるとあらためて感じる。客席は3階まであり総座席数は1078。玉三郎は客席の奥行きや独唱と斉唱のめりはりを考え、歌三線を初演の3人から5人に増やした。その効果は感じられた。
 5月の沖縄公演と大きく違うのは玉三郎の考えで間の者(まるむん)を2人に戻したことだ。城の掃除係・三良(宇座仁一)に先輩カミジャー(嘉数道彦)が加わった。一人芝居でユーモラスに粗筋を説明する間の者の役割は、県外の観客にはなじみが薄いだろう。2人にしたことで分かりやすくなり、「ソージグトゥ(国事)」と「掃除事」を掛ける言葉遊びでも笑いが起こった。言葉に頼らず所作や音楽で笑わせる工夫もあった。
 沖縄と同様、せりふのやまとぐち訳が舞台の両脇に字幕表示された。気になったのが山原のユタとノロが伊敷里之子(川満香多)に言う「やかり親国」が「首里のくそ野郎」と訳されたことだ。もっと品のいい訳はなかっただろうか。
 多彩な音楽と踊りが次々と展開する「蓬莱島」は反応が良かった。地謡席の向こうからニライカナイの神(玉三郎)が現れる演出は京都でも効果を発揮し、拍手が起こった。
 8日間の県外公演は沖縄の出演者にとってかつてない経験だ。1日1回公演とはいえ、連日の舞台は疲れがたまる。音楽担当の花城は「いつも通りのことをきちんとやる。後のことを考えて手を抜くのではなく、体調を管理してテンションを維持したい」と気を引き締める。
 玉三郎と共同演出する嘉数は「いつもと違う空気の中で真摯(しんし)に取り組むことが大事だ。毎回新鮮に取り組めるか、演者として集中力が鍛えられる。回数を重ねることで練り直し、作品が成長していけたらいい」と語る。
 尚真王役の玉城盛義は台本を読み直し、より深く役と向き合う。妹の音智殿茂金(うとぅちとぅぬむいがに)(玉三郎)を聞得大君に任命する最終局面で、沖縄では兄として唱えに泣きを入れたが、京都では国王として淡々と接している。
 玉三郎は目線など細かな演技を毎回変えるという。沖縄の出演者は「役をつかむ力がすごい」と口をそろえ、刺激を受けている。
 嘉数は京都公演を「琉球芸能の普及の意義もある。これを機に古典の舞台にも来てもらえれば、この上ない成功だ」と強調する。沖縄の挑戦は12日まで続く。
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観客「ゆったり優美」/字幕で理解、紅型に感嘆も
 客席は雑音もなく、真剣に鑑賞する姿勢が伝わってきた。公演後、7人の観客に感想を聞くと、ほとんどの人が「琉球独特の音楽や舞踊、せりふが印象的だ」と真っ先に答えた。「もう少し派手に動いた方がいい」との意見もあったが、おおむね「ゆったりとして優美だ」と評価した。
 字幕があったため、物語が分かりにくいという意見はなかった。紅型(びんがた)の美しさに感嘆する人もいた。
 「聞得大君」京都公演は6月15~21日の地唄舞と組み合わせ、「坂東玉三郎 特別舞踊公演」として上演されている。沖縄では昨年から玉三郎の演技について議論があったが、京都の観客は「きれい」「オーラが違う」と絶賛した。
 沖縄の出演者の印象はどうか。伊敷里之子役の川満香多や尚真役の玉城盛義を評価する声もあったが、玉三郎や粗筋を追うことに意識が向いている人もいた。主役を引き立てることも大切だが、沖縄の出演者もより存在感を発揮してほしい。一方、玉三郎目当てに来たという小松俊子さん(東京都)は「沖縄の芸能に興味を持った。古典も見てみたい」と話した。
 以前鑑賞した人もいた。今回が3回目という二宮哲夫さん(54)=千葉県=は「みんなの息が合ってきた。玉三郎を光らせている」と話した。