きょう敬老の日 伊良波さん、73歳から三線挑戦「兄の形見」


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兄幸善さんが愛用した三線を手にする伊良波幸政さん=5日、宜野湾市愛知の自宅

 宜野湾市愛知区老人クラブ友和会の会長、伊良波幸政さん(73)はことし4月から三線を始めている。愛用していた三線を10歳上の兄の形見として引き継いだことがきっかけだ。三線の主、兄幸善さんは2011年9月13日に79歳で亡くなった。幸善さんは県指定無形文化財「沖縄伝統音楽野村流」保持者で、幸(みゆき)太鼓の会を設立するなど、県内の琉球古典芸能をけん引する1人として活躍した。

 10人きょうだいの伊良波さんは末っ子の6男、幸善さんは4男。幸善さんは1950年代に琉球警察(現在の県警)に勤めていた。伊良波さんが実家のある今帰仁村を離れ普天間高校に進学した際、幸善さんの宜野湾市の自宅から通学した。
 伊良波さんにとって幸善さんは「尊敬する第二のおやじ」で、同じく警官になった。後に幸善さんは芸の道を究めるため警官を辞め、兄弟は別の道を歩むが、月に数回酒を酌み交わすなど時間を共有してきた。
 父幸治さんも三線を弾き、姉で3女の嘉味田光子さん(79)は幸太鼓の会の現会長として活躍するが、伊良波さんだけが楽器に親しむことはなかった。「演奏者が常に周りにいた。私が演奏する必要もなかった」と苦笑いする。
 昨年12月、幸善さんをしのぶ3年忌追悼公演が開催され、立ち見が出るほど盛況だった。あらためて兄の偉大さを実感した。「兄から引き継いだ三線を宝の持ち腐れにしてはいけない」と一念発起。4月から週2回、三線の教室に通う。
 間もなく迎える初舞台は11月、宜野湾市文化協会主催の発表会だ。幕開けの「かぎやで風」など3曲を披露する。
 幸善さんは生前、音楽の世界に伊良波さんを誘ったこともあった。「兄から直接習いたかった」。悔いが残る半面、今はその奥深さに気付き、自宅で1日5時間練習している。「まずはきちんと演奏できるようになり、兄に届けたい」。そう語り、きょうも工工四に向かう。(島袋貞治)