痛み押して最後の収録 がん闘病中・くっきぃさん


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ラジオ番組の最後の収録で笑顔を見せる「くっきぃ」こと久木野林さん=9月29日、糸満市のコミュニティー放送局FMたまん

 【糸満】糸満市のコミュニティー放送局FMたまんで9月29日、肝臓がんと闘う久木野林さん(64)の最後のラジオ番組収録が行われた。8月、医師から「余命1カ月弱」と宣告された。

現在、体には腹水がたまり、鎮痛剤で痛みを抑えている。病身を押して、「最後まで精いっぱい頑張りたい」とマイクに向かう久木野さんの姿を妻やリスナー、同局の職員らが見守った。
 久木野さんは41年前に鹿児島県から沖縄に移り住み、糸満市で理髪店とカラオケスタジオを営んだ。友人の誘いでラジオパーソナリティーになり、2008年から「たまん昼メロ~くっきぃと青春歌謡」を担当。妻の哲子さん(65)と共によりすぐりの歌謡曲をリスナーに届けてきた。
 余命宣告後もできる限り番組を続けようと頑張ったが、9月末に体の痛みは限界に達した。
 リスナーに感謝の気持ちを伝えようと、看護師付き添いの下、車いすで最後の収録に挑んだ。スタジオにはリスナーが駆け付け、久木野さんの一言一言を聞き逃すまいと耳を傾けた。
 「最初のころは機材の操作方法が分からなくて苦労したね。機械音痴の私だが少しずつ使い方を覚えた。人任せじゃ駄目。日々の積み重ねが大事」と力強く語った。傍らで哲子さんが涙を流すと「泣いたら駄目だよ、てっちゃん。お化粧が落ちちゃう」と笑いを誘い、「楽しい6年半だったね」と妻を励ました。
 途中、具合が悪くなり休む場面も見られたが、力を振り絞り「皆さんに支えられた6年半でした。思い残すことはありません。お世話になりました」と番組を締めくくった。哲子さんも「いろんなことがあったけど幸せな6年半だった。皆さんありがとう」とかみしめるように語った。
 スタジオにはリスナーから次々と花束が届き、花の香りに包まれた。同局の大城司社長は「精いっぱい頑張って生きる姿に勇気をもらった」と話し、感謝状を贈った。
 久木野さんは「みんなの力を借りて成し遂げた。寂しい気持ちより、満足感でいっぱい」と笑みをこぼした。