名作の魅力伝える 俳優協会「奥山の牡丹」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
自ら命を絶ったチラー(手前、真栄田文子)を抱き締める山戸(嘉陽田朝裕)=9月28日、西原町さわふじ未来ホール

 沖縄俳優協会(春洋一会長)は9月28日、西原町さわふじ未来ホールで「島巡り西原公演」を開催した。気鋭の若手とベテランをバランスよく起用し、四大歌劇の中でも長編の「奥山の牡丹(ぼたん)」(伊良波尹吉作)に挑んだ。名作の魅力を伝えたが、細かい部分に課題も残した。演技指導は久高將吉。

 身分の低いチラー(真栄田文子)は士族の三良(知念勝三)の子を産む。チラーは一緒になることを諦め、息子を三良に託して姿を消す。成長した息子・山戸(嘉陽田朝裕)はチラーを捜す。2人は再会するが、チラーは迷惑を掛けまいと自らの命を絶つ。
 第1部は若き日のチラーと三良を描く。普段、歌三線もしている知念の安定した歌唱力が印象に残った。真栄田の歌は変わったリズムになるときに地謡とかみ合わず、惜しかった。
 三良の父(春)をだましている妾(めかけ)(島袋ゆかり)を倒す場面は京太郎(ちょんだらー)8人の歌と踊りが見どころだが、迫力や一体感が物足りなかった。真栄田のなぎなたも、もう少し切れが欲しかった。
 第2部は山戸がチラーを捜す。山戸のかわいらしい恋人真玉津(伊良波さゆき)と乳母(宮里良子)のユーモラスなやりとりが会場の雰囲気を和ませる。
 山戸とチラーが再会する場面では、真栄田が豊富な舞台経験に裏付けされた表現力で母性と心苦しさをにじませた。嘉陽田も渾身(こんしん)の演技で涙を誘う。昨年始まった俳優協会の地方公演で何度も主役級に起用され、力を増してきているように思う。
 俳優協会はおおむね良い舞台を見せてくれるが、今は人気の若手舞踊家が組踊にも芝居にも取り組む時代だ。その中で俳優協会がより魅力を打ち出していくためには、歌や踊りのレベルアップ、細部にまでこだわった舞台づくりが求められるのではないか。
 地謡は仲宗根盛次、新垣和則、松本久子、桶川美晴。
 10月26日にうるま市きむたかホールでも上演する。問い合わせは沖縄俳優協会(電話)098(943)4801。(伊佐尚記)

※注:久高將吉の「高」は旧漢字