著名な放送作家が審査! フレッシュに映ったベテランコンビが王者に「お笑いバイアスロン 2020」レポート


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舞台でネタを披露するのはもちろん、テレビをはじめとした各メディアやイベントにも出演し、活躍を続けている沖縄のお笑い芸人たち。楽しいパフォーマンスで私たちを笑わせてくれますが、彼らが全力で勝負に挑む大会が夏の終わりに開催されています。その名も<お笑い総合王者決定戦・エッカ石油「お笑いバイアスロン」>

今年8回目を迎えたこの大会はコントと漫才、二種目の総合得点で王者が決まる全国でも珍しい賞レースで、有名番組を手掛ける放送作家陣が審査員なのも話題です。高須光聖さん(『水曜日のダウンタウン』他)、伊藤正宏さん(『ミュージックステーション』他)、内村宏幸さん(『LIFE!~人生に捧げるコント~』他)、中野俊成さん(『ロンドンハーツ』他)、鮫肌文殊さん(『世界の果てまでイッテQ!』他)という豪華な5人の採点で勝敗が決まり、沖縄県内で毎年生放送されているのです。今年の決勝戦は8月29日(土)に行われましたが、コロナ禍により無観客で東京の審査員室と会場を中継し、リモート審査での開催となりました。(主催:QAB 琉球朝日放送)

(執筆:フリーライター・饒波貴子)

多くの芸人がエントリーし、2カ月にわたる厳しい予選を勝ち抜いたのは7組。しんとすけ、カシスオレンジ、初恋クロマニヨン、知念だしんいちろう、太陽君とそよ風ちゃん、ベンビー、太陽コンパスという顔ぶれで、さらに敗者復活戦を勝ち抜いたもう1組が加わり、計8組が決勝の舞台に立ちます。常連組から初出場組、そして本番中に選出される敗者復活組まで、それぞれが熱い思いを胸に戦いの火ぶたが切られました!

コントの得点トップは前年王者!

ファーストステージはコントです。この大会を占う存在ともいえるトップバッターは、前年銀メダリストの「しんとすけ」。中華料理店の個性派店員とお客さんとのやりとりをコミカルに熱演し、練り込まれたボケとツッコミを畳み掛けました。こだわった小道具も笑いを誘い、堂々としたパフォーマンスでした。

2番手は初出場の幼なじみコンビ「カシスオレンジ」。休憩中の店員2人が「宝くじで10億円当選したら何に使うか」と討論しますが、「伊江島旅行」という仲村さんに対して「10億円あったら伊江島を島ごと買え! 金使え〜!」という仲本さんのツッコミが炸裂。細かい構成で段積みの笑いを作り上げました。

続いたのは前年金メダリスト、8回連続出場の「初恋クロマニヨン」。駐車場を舞台に、受け付け窓口と居住空間が一体になっている経営者の親子を描いたコントです。彼ららしい独特の世界観に、内村審査員から「良い設定で、さすが王者。面白かったです」という言葉が飛び出し、貫禄を見せつけました。

4番手は「知念だしんいちろう」。昨年は敗者復活戦からの決勝進出でしたが、今年はストレートに勝ち上がり、レンタカー屋ならぬレンタカウ屋をテーマに1人コントを披露。車を借りに来たお客さんに闘牛を貸し出そうとする男を演じ、迫真の演技に引き込まれました。

ファーストステージ中盤で、敗者復活戦の結果発表です。
視聴者推薦枠の「キンピラゴボウ」と「パーラナイサーラナイ」、大会推薦枠の「天地コンソメトルネード」と「プロパン7」。4組中視聴者投票で復活枠を勝ち取ったのは・・・プロパン7!
「一生懸命今からせりふを覚えたいと思います」とけいたりんさんがボケながらも、ホッとした表情をのぞかせました。

全ての出場者が出そろって、さらにヒートアップ! ファーストステージ後半戦へと続きます。
大会史上初の男女コンビ「太陽君とそよ風ちゃん」が、5番手として登場。マラソン大会でキャプテンアメリカの仮装をした男女のランナーが偶然出会うシチュエーションで、個性豊かな2人の恋模様をかわいく演じ切りました。

6番手は、審査員の高い評価を受けてきた「ベンビー」。居酒屋で箱入りティッシュを注文し、テーブルに運ばれた瞬間からひたすらティッシュを抜き出すサラリーマン風の男。ナンセンスムードの中で光る演技力に、笑ってしまいます。高須審査員から「さすがだな」というコメントを引き出していました。

10年ぶりに再結成した「太陽コンパス」が7番手。寿司屋の大将が中国人だったという設定で、大将の濃いキャラクターをさばくキレのあるツッコミと、時折見せる合わせ技。ブランクを感じさせないコンビネーションと2人の明るいオーラが印象的でした。

8番手は敗者復活戦から勝ち上がった「プロパン7」です。県出身の女性デュオ風のキャラクター「キロロー」を演じ、コンサートで「子どもの保育園、決まりました〜」と観客に発表するなど普段の会話を落とし込んだコントを披露。勝ち取った舞台だけあり、勢いとやる気に満ちたパフォーマンスでした。

ここでファーストステージ(コント)の結果発表、出演者全員の緊張感が伝わってくる時間になりました。結果は・・・8位:知念だしんいちろう(422点)/7位:太陽君とそよ風ちゃん(424点)/6位:カシスオレンジ(429点)/5位:太陽コンパス(432点)/4位:しんとすけ(439点)/3位:プロパン7(441点)/2位:ベンビー(446点)/1位:初恋クロマニヨン(455点)。
前年度王者の初恋クロマニヨンがトップです。「無観客でウケているのかいないのか分かりませんでしたが、ウケていたんですね」としょう2020さんが笑顔を見せました。続くのは大会常連のベンビー、勢いに乗るプロパン7で点差はわずか。勝負の行方はまだまだ分からない、という状況でセカンドステージの漫才がスタートしました!

漫才が評価されたのは誰!?

折り返しのセカンドステージのトップは知念だしんいちろう。沖縄の珍しい名字(入慶田本/いりけだもと、兼箇段/かねかだん他)にスポットを当てました。後半にかけてまくし立てる知念ださんは、さすがの話術を披露し勝負に挑みました。

2番手の太陽君とそよ風ちゃんは、お風呂でリンスとシャンプーを間違える仲村さんに、明るい人柄がにじみ出るツッコミをぶつける前田さん。どちらがボケかツッコミなのか!? だんだん分からなくなっていく展開に、2人の個性があふれ出ていました。

続いたカシスオレンジは「何でゲームをやってみよう、何でと先に言ったら負け」と、言い出しっぺの仲本さんが「何で?」を連呼。ハイテンションな仲本さんと、クールな仲村さんのキャラクターとバランスのマッチ加減が絶妙でした。

太陽コンパスが4番手で「相方やーすーのツッコミを、みなさんに見てもらいたい」と大心さんが宣言し、やーすーさんのツッコミに誘い笑い、アクリル生かしなど勝手にネーミング。リズミカルな掛け合いで、コント同様の素晴らしいコンビネーションを見せつけました。

5番手しんとすけは、ボクシングの記者会見がテーマ。しんさんの小気味良いボケの連続に、首里のすけさんのスパッとしたツッコミがさえ渡ります。いつの間にか沖縄のおばさんが出てきたり・・・ボケの多さと勢いで、漫才の妙を見せられました。

「沖縄は台風銀座」という導入で始まった6番手のプロパン7は、「台風とスターダストレビューはよく沖縄に来る」というつかみで、空気を引き寄せました。台風を中継するレポーターとスタジオのやり取りを続け、あるあるネタを交えてテンポ良く演じました。

ここで漫才を終えた6組の採点を、セカンドステージの途中経過として発表。出番を終えた出演者の命運を握るランキングは・・・6位:知念だしんいちろう(848点)、5位:太陽君とそよ風ちゃん(850点)、4位:カシスオレンジ(853点)、3位:太陽コンパス(865点)、2位:しんとすけ(873点)、1位:プロパン7(890点)でした。

この時点で暫定1位のプロパン7はメダル確定! けいたりんさんとじゅぴのりさんは、喜びと驚きが入り混じった表情で結果をかみ締めていました。
残すところあと2組! 金メダルを手にするのは誰!? 緊迫ムードで熱戦は続きます。

大会初、決選投票で王者決定

7番手はコント2位通過のベンビーさん。「もしもオナラに色が付いていたらすてきじゃないですか?」と問いかけ、コントに続いてナンセンスさを感じるテーマで漫談を繰り広げます。知性がにじむ語り口とテーマのギャップに、笑いがこみ上げてきたところで・・・終了後すぐに得点発表。合計877点のベンビーさんは暫定2位となり、プロパン7の金もしくは銀メダル獲得が確定しました。

今大会最後を飾ったのは、コント1位通過の初恋クロマニヨン。スナックのママを口説きたくて、店の前で粘るオジーをしょう2020さん、ママを比嘉さんが演じてリアリティーたっぷり。タクシー運転手役の新本さんがツッコミを入れます。夜の風景にありがちな一幕を漫才に昇華させました。

以上で全てのネタが終了。初恋クロマニヨンの採点結果で王者が決定します。運命の最終結果発表となり初恋クロマニヨンの得点は・・・890点。
なんと、プロパン7と初恋クロマニヨンが同点でした。よってこの2組による決選投票、という波乱の展開に!審査員が再度2組を審査した結果、満場一致で「プロパン7」に決定! 「お笑いバイアスロン2020」8代目王者に輝きました。

まさかの同点決勝で熾烈な戦いとなった今大会でしたが、これまで優勝を逃してきたプロパン7が初タイトルをつかみ取り、感動ムードの中で幕を閉じました。

生放送終了後、5人の審査員が率直なコメントを述べました。

高須光聖氏:リモート審査はやりづらく、演じる芸人さんはさらに難しかったと思います。舞台では観客の笑い声など体にしみ付いているテンポがあるはずですが、今回は全てなし。アクリル板も相方との関係性をぶった切るような面もあり、ネタの本来の面白さをかみ取れない部分があったのかもしれません。そんな中プロパン7は吹っ切れていて、画面から一番飛び出ている感じがしました。フレッシュなところが、審査員の心を持っていったのかなと思います。

伊藤正宏氏:無観客でもやりやすいネタと観客がいないとやりづらいネタ、という問題が出てきて、崩れたり立ち直ったりといろいろなケースがあるなと思いながら拝見しました。大会の常連芸人さんには、お客さんをガンガン笑わせてきたイメージがあったりします。なので今回、プロパン7さんの新鮮さが優ったのかもしれません。大変な中でのみなさんの頑張りに感動しました。

内村宏幸氏:審査する方も芸人さんもやりづらかったですね。でもみなさん頑張っていただきましたし、いろいろと中止になっている状況の中で、この大会を開催したことに大きな意義があると思っています。たくさんの方にエンターテインメントとお笑いの力を与えられ、良かったです。

中野俊成氏:ファーストステージの出演順が、いつも以上に大きかった大会だと思っています。最初の2組が終わったところくらいで、僕たち審査員がようやく慣れたと思うんです。トップバッターのしんとすけはそういう意味でちょっと損をしたかもしれませんが、僕は高い点数をつけました。来年期待していますし、ベンビーさんはもう少しナチュラルな漫談が見たかったです。

鮫肌文殊氏:コントと漫才を披露する高いハードルの大会なので、一方が良くても一方は少し落ちるという風になりがちなんですよね。そういう点で台風の目になると思っていたプロパン7が、勢いでやりきったところが新しく映りました。初恋クロマニヨンも良かったですが、コントも漫才も両方というハードルがクリアできずに惜しかったです。最近のトレンドでたくさんの可能性があるのが男女コンビなので、太陽君とそよ風ちゃんには頑張ってほしい。来年お会いしたいです。

そして王者になったプロパン7のけいたりんさんとじゅぴのりさんは、「敗者復活戦に勝って決勝へという気持ちだけで臨みましたので、楽しくできたと思います。結成17年目にしてやっとの初タイトル。これからも頑張ります!」と笑顔でガッツポーズ! 視聴者投票で選抜され、同点決勝の末に王者に輝くというドラマティックなニューヒーローになりました。

無観客にリモート審査と、コロナ禍で過去とは異なった形式で行われた今年の大会。つらい現状もある中で地道にネタを作り、勝負に挑む芸人さんたちの熱いお笑い魂を感じました。これからも島全体が笑顔で包まれるように、お笑いで沖縄を明るくしてくれる県産芸人のみなさんに大期待です。
審査員のみなさんが希望していましたが、来年はぜひ観客の前でコントも漫才も披露できる「お笑いバイアスロン」が開催されますように。

「お笑い総合王者決定戦「エッカ石油 お笑いバイアスロン」(2020年8月29日開催)最終結果
1位:プロパン7/2位:初恋クロマニヨン/3位:ベンビー/4位:しんとすけ/5位:太陽コンパス/6位:カシスオレンジ/7位:太陽君とそよ風ちゃん/8位:知念だしんいちろう

饒波貴子(のは・たかこ)

那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。