<社説>「1強」政治 疑惑の説明責任消えない


社会
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 安倍晋三首相の辞任表明を受け、自民党では後継の「ポスト安倍」を巡る動きが慌ただしい。その前に歴代最長政権の「1強政治」をきちんと検証することが不可欠である。

 首相は第1次政権に続き任期半ばに病気で辞任することになるが、7年8カ月に及んだ第2次政権で噴出した数々の疑惑を幕引きにすることは許されない。首相の説明責任は消えない。
 小学校用地として国有地が売却された森友学園問題では国が約8億円もの値引きをしていた。首相の妻昭恵氏が名誉校長に就任していたことを追及された首相が「私や妻が関わっていれば総理も国会議員も辞める」と明言した後、財務省は売却の経緯を記した決裁文書を改ざんしていた。
 加計学園問題では国家戦略特区制度による獣医学部新設計画が学園を前提に進められたとの疑いが持たれた。学園理事長は首相の長年の友人で、2人の面会記録も出たが首相は否定した。文書などで関与が発覚した首相側近らは「記憶にない」と繰り返した。
 首相主催の「桜を見る会」では参加者や予算が年々増加し、首相の地元後援会員が多数招かれていた。だが内閣府は実態解明の鍵となる招待者名簿を廃棄したと説明。会の前夜にホテルであった夕食会の費用の一部を首相側が負担した疑いも浮上したが、首相は明細書の開示を拒んだ。
 これらの政権私物化批判について首相は辞任表明の記者会見で「国会で長時間答弁した。十分かどうかは国民が判断する」と述べたが、これまでの世論調査で国民の8割以上が説明に納得していない。
 政権では首相に近い人が優遇され、「忖度(そんたく)」など行政の劣化も進んだ。首相は一連の疑惑について再度説明し、国民と歴史に責任を持つべきだ。
 解決が期待された北朝鮮拉致問題や北方領土返還に首相は注力したが、むしろ行き詰まった。一方で安全保障関連法や特定秘密保護法、「共謀罪」法などは国民の根強い反対を押し切って成立させた。
 長期政権下では、野党の国会召集要求を拒むなど国会軽視の姿勢も目立った。批判や異論を排除し、反対勢力を敵視するような首相の傲慢(ごうまん)な姿勢は、国民の間の分断をあおったことは否定できない。基地の過重負担を訴える沖縄に時折向けられる偏見や差別的言動も、こうした安倍政治の弊害と無縁ではないはずだ。
 辺野古新基地建設問題で政権は、選挙で何度も示された民意を無視し、技術的にも財政的にも完成が見通せない工事を強行している。地方自治や法治主義にも反するものだ。地域分断を図るような恣意(しい)的な予算制度も創設した。
 1強政治の反省なくして、後継首相を選ぶべきではない。安倍首相が政権発足時に掲げた言葉になぞらえれば、この長期政権で傷ついた日本の民主主義や立憲主義、法の支配などを取り戻すための歩みが今後求められよう。