<社説>地位協定見直し決議 問題可視化の意義は大きい


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 どんな問題であれ、その弊害が特定地域に局限されていたら解決は難しい。世論の後押しが必要な外交課題であればなおさらだ。

 その意味で、この決議が、沖縄だけでなく全国に問題を可視化させた功績は大きい。全国町村議会議長会が日米地位協定の抜本的見直しを求める決議を採択した。嘉手納町議会の徳里直樹議長が提起したという。
 決議は「締結以来、50年以上も改正されていない。運用改善や環境補足協定はなされたが不十分」とうたう。協定自体の改定を求めているのは明らかだ。高く評価する。政府は改定へ動くべきだ。
 地位協定の問題は歴然としている。米兵が容疑者と判明しても、ほとんどの犯罪では逮捕できない。日本側警察が米軍に通報すれば基地内で「拘束」するというが、拘束には3種類あり、留置施設に入れるのはごくまれだ。隊舎内は自由に動けるものもあれば、基地内であればどこへも行けるものもある。そうなれば証拠隠滅、口裏合わせはやりたい放題だ。
 わずかに殺人と強姦(ごうかん)だけは身柄引き渡しも可能だが、それも米軍の「好意的考慮」次第だ。凶悪事件なのに放火も強盗も対象外で、事実上、犯罪隠蔽(いんぺい)に手を貸しているのが今の地位協定なのである。
 環境汚染が露呈しても地元は立ち入り調査すらできない。調査を可能にする「運用改善」をした後でも、「好意的考慮」次第だから、米側が拒んだ例はいくらでもある。環境補足協定も同じ規定だ。有形無実になるのは目に見えている。
 基地を返還する際にも、猛毒物質を地中に埋めて隠蔽したままで、返還後に発覚しても米軍は知らぬ顔だ。騒音防止協定を結んでも抜け穴だらけで、午前3時台に110デシベルもの「聴力の限界」に近い爆音をまき散らす。こんな不平等かつ人権侵害の協定が21世紀に現存すること自体が問題なのである。
 こうした実態は、基地が沖縄に集中しているから他県の人には見えない。見えないから問題意識も持たない。改定の意思すらない政治も外務省も問題だが、沖縄以外の国民には見えない構造自体が問題なのである。
 協定を改定しようと思えば米国相手に「力業」の交渉をしなければならないが、国民世論の圧倒的な支持がなければ本格交渉は困難だ。その意味で決議の意義は大きいのである。この動きを他の全国組織にも広げたい。