<社説>大江健三郎氏講演 沖縄の正当性を再確認した


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 ノーベル賞作家の大江健三郎氏が講演し、新基地建設拒否の民意を掲げて政府と対峙(たいじ)する県民の闘いに賛意と敬意を表した。沖縄の訴えが正当であることをあらためて確認する機会となった。私たちは自信を持って政府との法廷闘争という厳しい局面を乗り越えたい。

 新基地建設に対し、大江氏は「根本的には何の解決にもならない。なぜ沖縄でなければならないのか。なぜ日本人は何十年も沖縄の基地を容認してきたのか」と疑問を呈した。
 辺野古移設を普天間飛行場の危険性除去のチャンスと捉える言動を批判し「真面目な発言ではない。本質的なモラルに反する」と断じた。これらの発言は新基地建設を拒否する県民の共感を呼ぶはずだ。
 「狭い沖縄に核兵器の基地があることが本質的な問題だ。沖縄だけではなく日本、アジア全体の問題だ」とも力説した。それは半世紀にわたって「核戦争の危機」の関わりの中で沖縄を見詰め、発言してきた大江氏の基本姿勢を踏まえたものだ。
 地上戦で犠牲を払った沖縄にアジア全体に脅威を与える米軍基地が居座り続ける現状にどう向き合うべきなのか、大江氏は日本人の責任を問い続けてきた。
 今回の講演でも、その姿勢を貫いた。沖縄の民意を無視し、新基地建設を強行する安倍政権を批判し「本土でも沖縄の人たちのように拒否権を示すべきだ」と呼び掛けた。それは日本人の責任の自覚を促すものだ。
 この日の講演で、大江氏は民主主義と平和主義を規定する日本国憲法にも力点を置いた。共に「九条の会」の呼び掛け人であった故奥平康弘氏の発言を引きながら、憲法の価値が文化として日本に根付いていることを強調した。
 米統治下の復帰運動で「憲法への復帰」を掲げた経験は、米軍基地の重圧にあらがい、沖縄の民意を政府に突き付ける今日の闘いにつながっている。大江氏が言う憲法の価値は沖縄でこそ生きていると言ってよい。
 壇上で3人の大学生と対話する中で大江氏は「民主主義的な考え方をはっきりと主張する沖縄の新世代がいることが希望だ」と語った。その思いを共有したい。
 沖縄の苦悩を見詰め「日本人とはなにか」を追求する大江氏に多くの国民は学んでほしい。そのことが日本の民主主義、平和主義を確固たるものにするはずだ。