<社説>臨時制限区域継続 直ちに解除し元の海域に


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 安倍政権は本気で沖縄県と和解する気があるのだろうか。

 米軍普天間飛行場移設を巡る辺野古代執行訴訟の和解を受け、県と政府が和解条項の細部を詰める作業部会を開いた。
 和解で辺野古の新基地建設工事が中断されたので、工事のために設置された臨時制限区域の解除やそれを示すフロート(浮具)などの撤去を県は要請した。当然の要求だ。
 しかし、政府は和解によって臨時制限区域の撤廃や浮具の撤去などの義務はないと強調する。その説明はおかしい。臨時制限区域は工事の保安のために設定されたのだから、工事が中断すれば存続の根拠はなくなる。直ちに臨時制限区域を解除し、本来の海域に戻すよう求める。
 同海域には、日米地位協定を根拠に在沖米軍基地の使用条件などを定めた日米合意文書「5・15メモ」に基づく米軍提供水域が設定されている。基地の保安を理由とした第1制限区域(沿岸50メートル以内)と、周辺で水陸両用訓練を行う第2制限区域の二つが常時立ち入り禁止だった。これを臨時制限区域として最大、沖合約2キロ(561・8ヘクタール)にまでに拡大した。
 そもそも「5・15メモ」は、沖縄県民を蚊帳の外に置いて日米間で合意し、長く秘密にしていた。県民の即時無条件全面返還という県民の要求を一顧だにせず、基地の自由使用を認める内容だ。
 沖縄の要求と懸け離れた「5・15メモ」に基づき、当時と同じように地元の頭越しに米軍提供水域の拡大に日米合意したわけだから、県民の民意は再び踏みにじられたことになる。
 経済にとっても損失だ。臨時制限区域が設定される前は、観光遊覧船や遊漁船が汀間漁港を往来する航路の一つだった。制限を解除しなければ経済活動や県民生活に影響が出る。
 今回の作業部会で政府は、浮具の撤去だけは検討する姿勢を示した。政府が県の要望に「最大限配慮」した印象を与えたにすぎない。県議選や参院選を控え、この問題が争点として浮上しないような演出だろう。
 和解を成立させる気があるなら、臨時制限区域を解除した上で、現在設置しているブイ(浮標灯)と、それを固定するため海底に沈めたコンクリート製ブロック(10~45トン)と工事用仮設道路も撤去するなど原状回復すべきだ。