<社説>租税回避地 合法であることが問題だ


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 タックスヘイブン(租税回避地)に関する「パナマ文書」の衝撃はさめやらない。むしろその闇の深さが一層浮き彫りになりつつある。

 日本人や日本企業が関係する租税回避地の法人が少なくとも270社に上ることが新たに分かった。
 文書に登場する企業や個人は一様に合法性を強調している。だがオバマ米大統領が述べた通り、合法であること自体が問題なのだ。
 誰もが使える制度ならまだしも言い訳が立つ。だが海外に形だけの法人を設立するといったことは相当な資金がいる。誰もができることではない。
 租税回避地の多くは英国の海外領だ。金融取引にはもともと不正や暴走を防ぐ幾多の規制がある。だがサッチャー政権時の英国の「金融ビッグバン」は、オフショア市場つまり海岸線より外での取引には規制を取り払った。租税回避地への税逃れが急拡大したのはその結果だ。
 その新自由主義的金融の行き着く先が2008年のリーマンショックだった。加担した銀行・証券会社には公的資金が注入された。
 高額所得者や大企業は合法的に税金を逃れられるが、中低所得者は厳格に徴税される。一部銀行は租税回避地を使って金を呼び込んだが、その投機が暴走しても救済される。投入されるのは税金だ。負担はいつも庶民である。これでは社会への信頼感は霧消しよう。
 文書は、漏えい元のパナマの法律事務所が当局からの照会に虚偽回答したり、情報を書き換えたりして顧客の情報を隠していた事実も暴いた。租税回避と犯罪やテロとの関わりを示唆する事実である。問題にしないのがおかしい。
 だが日本政府の反応には驚く。菅義偉官房長官はすぐさま、政府としての調査は「考えていない」と述べた。解明の機運に水を差し、税逃れの放置を宣言したのだ。
 タックス・ギャップ(本来納付されるべき税金と実際の納付税額との差)について米国の内国歳入庁は、01年で3450億ドル(約38兆円)に上ると推計した。だが日本政府は推計せず、するつもりもないと答弁する。社会の公正性確保にこれほど後ろ向きな「民主国家」も珍しい。
 税逃れを防げば多額の税収を確保できよう。消費増税が必要か否かの論議にも直結する。租税回避を許さぬ法を整備すべきだ。今年の先進国首脳会議で厳格な規制への合意を取り付けるべきであろう。