<社説>リオから東京へ 五輪憲章に立ち返ろう


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 リオデジャネイロの街を照らした聖火が消え、南米で初めて催された五輪が閉幕した。五輪旗が小池百合子東京都知事に引き継がれ、2020年東京大会の成功に向けた取り組みが本格化する。

 国家、民族、宗教などの壁を超えた平和の祭典である五輪の真価を発揮するために、東京の開催意義を議論し続ける必要がある。
 当初7千億円とされた開催経費が2兆円を超えるとの見立てもある。簡素な運営で経費を抑え、東日本大震災から着実に復興している姿を世界に発信せねばならない。東京五輪が直面する課題は山積している。
 世界に排外主義が渦巻き、紛争と分断が深刻化する中、平和、連帯、公正など、五輪憲章が掲げる理念に立ち返らねばならない。
 誰のために、何のために五輪を催すのかを考えた時、リオ五輪閉会式に安倍晋三首相が登場したことに強い違和感を禁じ得ない。
 五輪は政治から独立する。あくまで主役は選手で、国は開催都市を支える側に立つ。五輪憲章は政治的な宣伝活動を禁じており、次回開催国の最高首脳が閉会式に堂々と登場した例はない。
 安倍氏には、東京五輪を現職首相で迎えたいという思惑があるとささやかれている。スポーツの政治利用の批判は免れないだろう。
 リオ五輪は治安や大会運営でトラブルが相次いだが、大会自体を揺るがす混乱はなかった。ブラジル国民は悲願のサッカー男子初優勝に酔いしれ、明るい国民性で運営を乗り切った。史上初の難民選手団は世界に感動を与えた。東京五輪にも引き継いでほしい。
 ドーピングの闇が断ち切れなかったことは残念だ。禁止薬物使用を国ぐるみで隠蔽したロシアは出場禁止にならず、今大会も多くの違反が発覚した。不正の土壌を断つ一層厳しい改革が求められている。
 金12個を含め、過去最多の41個のメダルを獲得した日本選手団の活躍をたたえたい。強く印象に残るのは不屈の逆転劇だった。
 最終種目で2位を抜き去った体操男子団体と個人総合、敗戦間際に3選手が連続逆転Vを果たしたレスリング女子、バドミントン女子ダブルスなど、諦めない強い気持ちが国民を大いに勇気付けた。
 重量挙げ62キロ級に出場した県出身の糸数陽一選手は4位入賞した。東京五輪での悲願のメダル獲得に向け、一層の精進を期待したい。