<社説>養育費等差し押さえ 泣き寝入りしない制度に


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 法務省は、養育費や犯罪賠償金の未払い問題解消へ財産差し押さえの強化に乗り出す。支払い義務を果たされずに、ひとり親や犯罪被害者が泣き寝入りすることのない社会の一助になることを期待したい。

 制度導入の趣旨は、支払い義務がある人の財産差し押さえを容易にするため、裁判所が金融機関に預貯金口座の有無を照会し、支店名や残高を回答させる仕組みを柱とする。
 現行制度では、裁判所が支払い義務がある人の口座を差し押さえる場合、支払いを受ける権利のある人が自力で金融機関の支店名まで特定する必要がある。相手との接点が少ない場合は特定が難しく、大きな負担になっている。
 新制度では、金融機関名さえ挙げれば、裁判所に差し押さえを申し立てできるようになる。
 ただ、法的義務に背を向けて不払いを続ける人に確実に支払わせるのは容易でない。法務省が諮問した制度設計でも、強制執行の動きを察知して意図的に口座を移すなどすれば、逃れられる。天引き方式で支払わせるため、裁判所が給与情報の開示を命じられるような仕組みを求める声も強い。
 養育費の場合、欧米の多くの国では行政機関が代わって取り立てる制度が整備され、不払い自体に罰則を設ける例もある。米国では連邦政府や州が社会保障番号などを使って支払い義務のある人の居住地や勤務先などを突き止め、個人に代わって養育費を徴収している。
 養育費に限って言えば、沖縄は全国より支払われる率が低い。県の「ひとり親世帯等実態調査」(2013年度)では、離婚した母子家庭の75・8%が養育費を「最初から受け取っていない」と回答した。全国平均の60・7%(11年度調査)に比べ15ポイントも高い。
 養育費を受け取っている世帯でも「3万~4万円未満」が36・4%で最も多く、母子世帯の83・5%が特に困ったこととして「家計(生活費)」と答えており、養育費が子育てや生活を支えるに十分とはいえない現状がある。
 離婚や犯罪被害で大きなダメージを負った人を経済的困窮に陥らせないためには、今回の民事執行法改正案でも十分とはいえない。
 子どもや犯罪被害者の立場に立った、より幅広い救済策が求められる。