<社説>首相無責任発言 住民の苦しみに向き合え


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 米軍北部訓練場内のヘリパッド建設地周辺の騒音について安倍晋三首相は国会で「環境基準に満足している」と答弁した。

 騒音に苦しむ住民への一片の思いやりもなく、明確な根拠も示さぬ無責任な発言だ。「環境基準に満足」とする根拠の明確な説明を首相、政府に要求する。
 ヘリパッドは東村高江に近い訓練場内に6カ所が計画され、2カ所は2014年7月までに完成した。
 完成とともにオスプレイが飛来し、6月に沖縄防衛局がヘリパッド周辺で行った調査では夜間(午後7時~翌午前7時)の騒音発生回数が383回を数え、14年度の月平均の約24倍にも激増しているのである。
 既設2カ所でこのありさまだ。6カ所に増えれば、騒音も2倍、3倍に増えないか。辺野古新基地の建設により新基地、ヘリパッド間をオスプレイが飛び交う。騒音の激増は火を見るより明らかだ。
 防衛局が同村に設置する騒音測定器3器はいずれも既設のヘリパッドから1・5キロ以上離れている。専門家は「測定器を増やし、継続的な調査」が必要と指摘する。
 防衛局は専門家の意見に従い、測定器を増やし、適正な設置場所を選定すべきだ。オスプレイ特有の低周波音の健康被害など、専門家が納得する騒音実態の調査を行い、公表する責任もある。
 首相は今国会の所信表明でも、ヘリパッド移設で北部訓練場の過半返還を実現し、「基地負担軽減に尽くす」と強弁していた。
 日本政府がオスプレイ運用を隠蔽(いんぺい)した北部訓練場返還とセットのヘリパッド建設については、米軍自ら海兵隊「戦略展望」で基地機能強化を認め、歓迎している。
 基地機能強化を隠蔽し、騒音悪化の実態に耳をふさぐ首相発言、政府の対応は容認できない。
 政府はヘリパッド建設に対する訓練場内での市民の抗議活動に、刑事特別法による逮捕を検討しているとされる。
 県議会では池田克史県警本部長が、抗議活動には「極左暴力集団も参加している」と述べた。
 所信表明で首相はヘリパッド建設の年内完了を表明している。米国との約束を実現するためには、反対する市民の逮捕も辞さない政府の強権的な姿勢が強まっている。
 基地強化に反対するのは市民の正当な権利だ。強権発動は火に油を注ぐことにしかならない。