<社説>過労死防止白書 具体的改善策の確立急げ


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 政府が「過労死等防止対策白書」を初めて閣議決定した。

 白書をまとめざるを得なかった深刻な長時間労働の実態にメスを入れ、過酷な勤務を強いられた労働者が死に追いやられる事態を根絶する契機にすべきだ。
 特に働かせる側の企業や自治体などに、残業制限など具体的な改善策を強く促し、「過労死ゼロ」に向けた意識改革につなげたい。
 白書には、企業約1万社と労働者約2万人を対象にしたアンケート結果が盛り込まれた。過労死ラインとされる月80時間以上の残業をした正社員のいる企業が23%に上り、そのうち100時間超は12%に上る。
 2015年度に過労死が96件、過労自殺が93件、労災認定された。だが、警察庁などがまとめた勤務問題に起因する自殺は15年に2159件もあった。労災認定されるのは氷山の一角である。
 先進国の中でも過労死が多いとされる要因には、労使の力の不均衡がある。過労死の危険にさらされる労働者が後を絶たない危うい状況を鮮明に示すデータは重い。
 14年11月に施行された過労死防止法は過労死対策を国の責務に定めた。だが、政府が国会に提出している労働基準法の改正案は、一部労働者を労働時間規制の対象外とし、あらかじめ定めた時間を超えて働いても残業代が出ない「裁量労働制」の対象業務を拡大する。
 「過労死ゼロ」より「残業代ゼロ」が優先されていまいか。働き方の改悪は、過労死防止を掛け声倒れにしてしまいかねない。
 県内に目を転じると、幼稚園、小中学校の教職員の長時間労働が際立っている。県教職員組合の調査によると、約3割が月80時間以上の時間外勤務をしている。
 労働安全衛生法は労働時間が月80時間を超える場合、医療機関への受診が使用者の責任として義務付けられている。だが、県内の学校現場のほとんどで「超過勤務記録」も「出退勤時刻」も把握されず、受診義務は形骸化している。
 15年度の教職員の病気休職が421人に上り、メンタル疾患が176人を占める。病休発生率は8年連続全国ワーストである。過労死に直面する県内教職員の勤務実態の改善は待ったなしの課題である。
 仕事と生活を無理なく両立させるワークライフバランスがいかに重要か。雇用する側と労働者の双方が意識を高めることも必要だ。