<社説>TPP審議入り まずは情報開示と説明を


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 日米など参加12カ国が巨大経済圏を目指す環太平洋連携協定(TPP)の承認案と関連法案が衆院特別委員会で審議入りした。

 安倍政権が国会承認を急ぐのは、陰りが見えるアベノミクス批判をかわし、経済成長を推し進める改革姿勢を示す狙いがある。しかし、協定は米国が批准しない限り発効しない。多くの協定参加国は米国の動きを見極める姿勢だ。日本は批准を急ぐよりも、まずは国民に丁寧に説明すべきだ。
 TPPについては4月の国会審議で与野党が情報開示などを巡って対立し、審議が中断した。しかし、その後も政府は積極的に情報開示をしていない。逆に協定の関連文書の誤訳や脱落が見つかった。
 関税を撤廃するのは全ての農林水産物の8割に上り、国会決議で「聖域」とした重要5品目でも3割に上る。5品目の一つ、牛肉は関税が現在の38・5%から発効16年目に9%まで段階的に下げられ、豚肉も安い価格帯で1キロ482円の関税が10年目に50円に下がる。
 県内でも情報の少なさ、国会決議との整合性に疑問の声が上がっている。JA沖縄はTPP発効の県内農業への影響について「畜産分野を中心に約200億円」と試算し、批准に反対している。単純比較はできないが、県内農林水産業の純生産額は465億円(2013年度)で影響の大きさが分かる。
 TPPは署名から2年以内に全参加国が承認の国内手続きを終えた場合などに発効する。しかし米国をはじめ多くの国で手続きは進んでおらず、発効の見通しは立っていない。
 11月の米大統領選では民主党クリントン候補、共和党トランプ候補共に反対の姿勢だ。オバマ大統領が任期中に批准を目指しても、上下両院で多数派の共和党は反対で、仮に批准されても「再協議を求める」などの付帯決議が付く可能性が高い。
 さらに米国は大統領選と同時に全下院議員と上院議員3分の1が改選される。トランプ氏飛躍の背景となった米国第一主義の影響は議員選挙にも及ぶだろう。グローバル企業だけが利益を得て雇用が失われる恐れがあるとして、「反TPP」は強まる。
 批准した後で、疑念や問題が生じても条件は覆せない。議論を進めるために政府はまず国民に情報を開示すべきだ。米国の状況を見ても時間は十分ある。