<社説>嘉手納未明離陸 政府は爆音の共犯者だ


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 安眠妨害にとどまらない。未明の米軍機離陸は殺人的行為だ。県民への人権蹂躙(じゅうりん)をこれ以上、許すことはできない。米軍と共に事態を放置する政府に強く抗議し、未明離陸の即時中止を求める。

 米サウスカロライナ州軍のF16戦闘機6機が19、20日の未明に連続して嘉手納基地を離陸し、100デシベル前後の爆音をまきちらした。
 當山宏嘉手納町長の抗議に対し、同基地第18任務支援群のポール・オルダム司令官は「州軍機は第18航空団の指揮系統に属さない。離陸は上級司令部からの指示。離陸時間を調整できなかった」と答えたという。
 外来機の未明離陸を回避するのは不可能-と認めたに等しい。あまりに無責任だ。午後10時から午前6時の夜間飛行を制限する騒音防止協定が、実効性なき空約束であることが明白になった。
 嘉手納基地は従来、「パイロットの負担を軽減し、目的地に日中に着陸するには、未明に離陸するしかない」とも説明してきた。
 パイロットの負担軽減のため、基地周辺の数万人の住民の安眠を犠牲にしているのである。
 2007年に抗議を受けた当時の嘉手納基地司令官は「基地がある限り10年後も未明離陸は続く」と答えた。その通りになった。基地ある限り未明の爆音被害は続く。そうであるなら基地撤去を求めるしかないのではないか。
 「殺人的行為」は比喩ではない。第3次嘉手納爆音訴訟で松井利仁北海道大学教授は「夜間騒音で1年間に心筋梗塞や脳卒中で約4人が亡くなっている」と証言した。「睡眠障害は1万人以上」という。
 100デシベルは「電車が通るガード下」の騒音だ。航空機騒音の程度を示す「うるささ指数」は、深夜から早朝の騒音を昼間の10倍に補正して算出する。安眠中の爆音は「殺人的騒音」と言っていい。
 普天間飛行場では18、19の両日、116デシベル(間近に聞く自動車の警笛音に相当)の騒音を測定した。未明離陸を容認し、爆音の健康被害を不作為に放置する政府は、米軍の共犯者だ。
 09年の第2次嘉手納爆音訴訟の控訴審判決は「受忍限度を超える騒音は明らか。国は騒音の状況改善を図る政治的責務を負う」と指摘した。
 政府は政治的責務を果たすべきだ。未明離陸は金輪際、認められない。爆音の除去か、基地の撤去か、政府は判断すべきだ。