<社説>女児虐待死判決 虐待、暴力の連鎖を絶とう


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 親が幼いわが子を殺(あや)めた。憎んであまりある事件だが、それだけでは片付けられない重い課題を残した。行政や警察の適切な対応と同時に、虐待の連鎖をいかに断ち切るかが問われている。

 宮古島市で昨年7月、3歳の女児に暴行を加え死亡させた傷害致死事件で那覇地裁は、父親の被告(22)に懲役7年(求刑同8年)の判決を下した。
 犯行は女児の頭を床に打ち付けるなど残忍で、複数の打撲痕が残るなど日常的な虐待をうかがわせた。被告は妻や女児の幼いきょうだいにも暴行を振るっていた。
 逮捕時に被告は「しつけのつもりだった」と抗弁したが、判決は「しつけの範囲を明らかに逸脱し、繰り返された児童虐待の延長上」の犯行と厳しく断罪した。
 なぜ事件を防げなかったのか。被告は妻や子どもたちに暴力を繰り返していた。
 妻の相談を受け、当初住んでいた沖縄市のコザ児童相談所は「一時保護」を決定したが、保護の前に家族は宮古島市に転居した。
 子どもたちだけの保護を被告の妻である母親はためらっていたようだ。コザ児相はDV被害者の母親も一緒に保護しようと促した。コザ児相の依頼を受け、宮古島市、宮古署が家族の安全確認を行っていたというが、家族の保護に至らぬまま事件の悲劇を迎えた。
 コザ児相、連携した宮古島市、警察の対応が適切だったかを改めて問い直したい。詳細に検証し、改善を図らねばならない。
 転居により生じたコザ児相と家族の距離が対応を遅らせなかったか。事件後、同市への児相分室の設置も提言されている。
 被告自身、親から虐待を受けていたという。判決は被告が虐待被害者であったことが犯行に影響を与えた可能性を指摘している。
 また妻が子どもたちの一時保護をためらったことなどについても専門家は、被告からのDV被害の影響があった可能性を指摘する。
 親から子への虐待の連鎖、またDVの複雑な要素と対応の難しさが、公判を通して浮き彫りになった。
 再発防止に向けた県社会福祉審議会の「検証報告書」は「児相と女性相談所の合同研修の機会を増やし、虐待とDVに関連する基礎的知識を深め、実践に即した研さんを積む」ことを提言している。
 悲劇を繰り返さぬ対策の強化を関係機関に求めたい。