<社説>パリ協定発効 化石燃料と決別しよう 日本も速やかに批准せよ


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 昨年12月に誕生した地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」が発効した。地球の気温上昇を防ぐため、世界中の国が同じ目標に向かう。大気中に温室効果ガスを出さない「脱炭素時代」の始まりだ。
 先進国だけに温室効果ガス削減義務を課した京都議定書から前進し、パリ協定は先進国と発展途上国190カ国以上が参加する。
 既に批准した米国や中国など96カ国と欧州連合(EU)が世界の温室効果ガス総排出量に占める割合は約69%に達し、大きな効果が期待される。残念なのは日本が環太平洋連携協定(TPP)関連の審議を巡る国会の混乱で、批准に間に合わなかったことだ。

政策転換が必要

 協定では産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1・5度未満に抑えるため各国が自主的な削減目標を掲げる。5年ごとに互いに点検し、取り組みを強化していく仕組みだ。
 ただ日本を含め各国が掲げる現在の目標では、全て足しても2度以上の上昇が避けられない。今後は目標達成へ向けた各国の取り組みや目標引き上げが焦点となる。
 そのために必要なのは温室効果ガス排出のもととなる化石燃料からの脱却だ。太陽光や風力の活用などエネルギー政策の転換が各国政府に求められる。
 とりわけ日本は積極的に対応する必要がある。TPP審議の混乱があったとはいえ、パリ協定批准が遅れたのは、地球温暖化に対する政府の優先順位の低さを露呈した外交的失態といえる。
 安倍政権は依然として原子力を基礎電源として活用する予定で、原発再稼働を進めようとしている。だが廃炉まで考えれば膨大なコストがかかる原発を温室効果ガス削減の切り札と考えるのは早計だ。世界の潮流は太陽光など再生可能エネルギーへの転換である。日本政府が「温暖化対策に熱心でない」という汚名を返上したいのであれば、エネルギー政策の大胆な転換と、世界をけん引する革新的技術を提示すべきだ。
 7日からはモロッコで国連の気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)が開催され、協定の実施ルールを審議する。15日に開催される協定の第1回締約国会議で、日本は批准の遅れからオブザーバー参加となる。国際社会での存在感低下は避けられない。
 少なくとも日本の民間企業は、ハイブリッド車や省エネ家電など環境対応で世界最先端の技術がある。官民の協力により、技術力に裏付けられたリーダーシップを発揮することもできよう。まずは日本も批准を急ぐべきだ。

暮らし見直す好機

 ビジネスの世界も変わりつつある。海外では地球温暖化を引き起こす化石燃料を扱う石炭火力発電所を抱える電力会社への投資は「ハイリスク」と見なされ、投資家が資金を引き揚げる動きが本格化している。将来的に経営が行き詰まって不良資産化し、投資が回収できなくなるとの考え方が根底にある。逆に企業の環境問題への取り組みへの投資が2012年に世界で13兆ドル(約1300兆円)だったが、14年に21兆ドルに拡大しているという。
 一方、地方自治体では徳島県が「脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例」を今年10月に制定、来年1月から施行する。削減目標は国の目標26%より多い40%を掲げる方針だ。風力や太陽光、波力などでエネルギーを地産地消できるようになれば、地方経済の自立や雇用促進につながる。島嶼(とうしょ)県の沖縄こそ再生可能エネルギーの比率を高めるべきだ。パリ協定が私たちの暮らしを見直す転換点となることは間違いない。
 京都議定書が採択から発効まで約8年かかったのに比べ、パリ協定は採択後、1年足らずで発効することができた。これは世界各国の危機感の表れともいえる。脱炭素時代を迎えるに当たり、地球の危機を食い止めるのは一人一人の自覚にあることを確認したい。