<社説>センダン効果解明 沖縄発がん治療薬に期待


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 まさに命を救う樹になるかもしれない。

 県内に自生するセンダンの葉から抽出した成分に、がん細胞のオートファジー(自食作用)を促し、最終的に殺す効果があることが分かった。
 従来の抗がん剤などと比べ副作用が少ないという。がん治療の可能性を広げそうだ。今後、複数の段階を踏むので実用化までにはまだ時間が掛かるだろうが、沖縄発の医薬品化に大いに期待したい。
 ウイルス研究の権威で生物資源研究所(名護市)の根路銘国昭所長と、分子生物学者で沖縄科学技術大学院大学(OIST)細胞シグナルユニットの山本雅教授が共同研究で明らかにした。
 根路銘氏は10年にわたって沖縄の植物2300種類を片っ端から調べた。その中でセンダンに抗がん作用のある成分が含まれることを発見した。
 県産のセンダンから毒性を取り除いた成分をがん細胞を移植したマウスに投与したところ、大腸がん、肺がん、胃がんの細胞を殺した。培養がん細胞では70種類のがん細胞を殺した。さらにがんにかかった犬約30頭にも投与した結果、76%の犬でがん腫瘍がなくなったり、がんの成長が止まったりした。
 しかし、これまでなぜセンダンが、がん細胞に効くのか解明できなかった。そこで山本教授に協力を依頼し、オートファジーが要因だと突き止めた。
 オートファジーとは細胞が自らのタンパク質を分解してリサイクルする自食作用で、仕組みを解明した大隅良典・東京工業大栄誉教授が今年のノーベル医学生理学賞を受賞している。根路銘氏らの成果はオートファジーの基礎研究にも貢献するだろう。
 ところで、日本の基礎研究は危機に立っている。国の研究資金の配分が短期的な経済利益に直結する応用研究に集中する傾向にあるからだ。基礎あっての応用だ。研究環境が厳しくなるにつれ、若者の研究者離れも進み、近年は博士課程への進学率は低下傾向にある。
 根路銘氏はセンダン以外にもがん細胞に効果がある11種類の植物を発見している。亜熱帯の沖縄の植物が未知の可能性を秘めているということだ。琉球大学に薬学部を新設して研究拠点にするなど、基礎研究分野の底上げに力を入れてほしい。