<社説>基地から黒色粒子 調査、対策は国の責任だ


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 住民の健康被害につながる問題だ。米軍基地を提供する国は米軍嘉手納基地や普天間飛行場など基地周辺の大気汚染を調査し、対策を講じる責任がある。

 嘉手納町が初めて実施した悪臭に関する調査で、発がん性物質が含まれる可能性がある「黒色粒子」が嘉手納飛行場の方向から流れていることが分かった。風向きや風速、米軍機の騒音も同時に計測した結果、米軍機からの排ガスが悪臭の原因である可能性が高いという。
 北海道大学の松井利仁教授のグループが、嘉手納基地の海軍哨戒機駐機場の北西に当たる同町屋良で調査に当たった。黒色粒子は細かなすすなどの微粒子で、発がん性物質を含む可能性がある。黒色粒子量は嘉手納基地の騒音レベルの上昇に伴い増加する傾向があった。松井教授は、航空機のエンジンから排出されているものと推測する。
 住民からは悪臭に関する苦情が何十年も前から寄せられていたというが、国はほとんど対応していない。
 那覇防衛施設局(当時)が2003年に大気汚染物質と悪臭物質を調査し、基地周辺の5カ所全ての調査地点で悪臭物質のアセトアルデヒドが悪臭防止法に基づき県知事が定める規制基準値(0・05ppm以下)を超えて検出された。
 環境省は13年に大気汚染物質の窒素酸化物(NOx)などの濃度を7日間測定して、米軍機の離着陸が汚染物質の濃度上昇に影響している可能性を示唆したものの、環境基準値を下回り、全面的な調査には至らなかった。NOxは呼吸器障害を起こすとして東京都は03年にNOxを多く排出するディーゼル自動車を規制している。
 国はアセトアルデヒドが基準値を超えても、NOxと米軍機離着陸との関連が見えてもきちんとした調査をせず、対策も取っていない。
 今回の調査では黒色粒子の成分分析には至っていない。臭気レベルの測定には測定日数などさらにデータを蓄積する必要があるという。町単独の予算で大規模調査を行うのは限界があるだろう。
 松井教授は爆音による睡眠妨害や心疾患の影響も含め「嘉手納飛行場周辺で戦後70年間、『公害病』の発生が放置されているのは行政の不作為」と断じている。国は速やかに徹底調査に取り掛かるべきだ。