<社説>被災者いじめ 「生きる」決断に応えよ


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 まさに「教育の放棄」にほかならない。

 東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市へ自主避難した中学1年の男子生徒が避難直後から小学校でいじめを受け不登校になった。さらに神奈川県警から同級生との金銭トラブルについて直接情報提供があった学校や、情報を把握していた市教育委員会が積極的に対応せず放置していた。
 大津市の中2男子のいじめ自殺をきっかけに、防止対策を徹底するため2013年9月にいじめ防止対策推進法が施行された。心身に重大な被害を受けたり、長期欠席を余儀なくされたりした場合を「重大事態」と定義し、学校には文部科学省や自治体への報告を義務付けている。
 今回のケースは「重大事態」に当てはまる。学校と市教委はいじめ防止対策推進法違反ではないか。いじめを放置したため第三者委員会の調査開始が遅れた。その結果、加害者の聞き取りができず、被害生徒の救済が遅れた。原因を徹底的に究明し、生徒の心のケアと再発防止を求める。
 生徒は小学2年だった2011年8月、横浜市立小に転校。直後から名前に「菌」をつけて呼ばれたり、蹴られたりするなどのいじめを受けた。生徒は「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった」と手記につづっている。
 小5の時に同級生から「(原発事故の)賠償金をもらっているだろう」と言われ、ゲームセンターなどで遊ぶ金約150万円を負担させられた。国の原子力政策の犠牲になった被災者に対する心ない陰湿ないじめだ。
 父親が学校に相談すると「警察に相談してください」と言うだけで積極的に対応しなかった。学校は警察から情報提供があっても動かない。市教委も調査開始が遅れた。父親は学校に不信感を抱き、第三者委員会に調査を求めた。ここまでしなければ学校も市教委も動かなかったとは信じがたい。「いじめ隠し」と指摘されても仕方ない。
 生徒は手記の後半で「いままでなんかいも死のうとおもった」と振り返り「でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と結んでいる。精神的に追い込まれながら生きると決断した生徒に、学校と市教委は真摯(しんし)に対応しなければならない。