<社説>「集団自決」記述復活 再訂正し軍の強制明記を


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 2017年度から使用される高校日本史教科書のうち、山川出版社は「詳説日本史B改訂版」で沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)の記述を復活させた。

 しかし、これでは不十分だ。「集団自決」に対する軍の強制・関与が記述されておらず、沖縄戦の実相が伝わらないからだ。山川出版社は再訂正して軍による強制性と「住民虐殺」を明記すべきだ。
 記述が復活したのは沖縄戦に関するコラムで「島民を巻き込んでの激しい地上戦となり、『集団自決』に追い込まれた人びとも含めおびただしい数の犠牲者を出し」と表記した。
 日本史Bのシェアの約6割を占める山川出版社の教科書が、約10年ぶりに「集団自決」を復活させたのは当然だ。同時に、復活するまでの10年間この教科書を使った高校生が沖縄戦の核心部分を学ぶ機会を失ったことは残念でならない。
 第3次家永裁判の最高裁判決は「集団自決」の原因を「極端な皇民化教育、日本軍の存在とその誘導、守備隊の隊長命令、日本軍の住民への防諜対策など」と認定している。
 ところが05年度検定で山川出版社が日本軍の島民に対する「残虐行為」「集団自決」に関する記述を自主的に削除した。そして06年度の検定で日本軍による「強制」との記述が削除された。
 背景について研究者らは、05年に自由主義史観研究会が国や教科書会社に対し、歴史教科書の「集団自決」の日本軍による強制の記述削除を求める決議をしたことを挙げている。
 その後「集団自決」での軍命の有無が争われた大江・岩波裁判では「集団自決には日本軍が深く関わっていた」と軍の関与を認定する最高裁判決が確定している。
 14年1月の検定基準改正で、近現代史を取り扱う際には「政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、それらに基づいた記述がされている」ことが加えられた。
 時の政府の意向に教科書が翻弄(ほんろう)されることはあってはならないが、少なくとも二度にわたる最高裁判例は明らかに軍の強制と「集団自決」の関連を認めている。
 判例が教科書に反映されないのは検定基準に照らしてもおかしい。強制性の記述を求めなかった文部科学省の対応も疑問だ。
 教科書会社は歴史的事実として沖縄戦の実相を伝える責務がある。