<社説>首相の真珠湾慰霊 心からの謝罪が不可欠だ


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 安倍晋三首相が今月末、日米開戦の発端となった米ハワイの真珠湾で戦争犠牲者を慰霊する。意義ある訪問にするためには、首相の心からの謝罪が不可欠だ。

 1941年12月7日(日本時間8日)、日本軍が戦闘機などで米軍の重要な軍事拠点である真珠湾を奇襲攻撃し、約2400人の米国人が死亡した。米国は翌8日(同9日)、日本に宣戦布告し、太平洋戦争の戦端を開いた。
 真珠湾攻撃の犠牲者や5年近く続いた太平洋戦争の犠牲者を思えば、謝罪を躊躇(ちゅうちょ)すべきではない。だが、首相は「犠牲者の慰霊のための訪問だ」とし、謝罪する考えはないようである。謝罪を避けるようでは慰霊の意義は薄れる。
 菅義偉官房長官は首相の真珠湾訪問を「先の大戦に関する首相の考え方は昨年8月の戦後70年談話に全て尽くされている。今回の訪問は戦没者の慰霊のためであり、謝罪のためではない」としている。
 だが、首相の戦後70年談話に盛り込んだ「おわび」は「わが国は先の大戦における行いについて、繰り返し痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明してきた」と経緯を説明しただけで、首相自身の考えは明確ではない。「歴代内閣の立場は、今後も揺るぎない」ともしたが、「おわび」の気持ちを首相が直接表明してはいない。
 こんな曖昧な戦後70年談話で事足れりとすることは許されない。
 首相がオバマ大統領と共に献花するアリゾナ記念館は日本軍の真珠湾攻撃で沈没し、1177人が死亡した戦艦アリゾナの上に建つ慰霊施設である。首相がその施設で明確に謝罪することで、日本への信頼感は格段に高まる。その機会を逸してはならない。
 首相は真珠湾訪問を「日米の和解の価値を発信する機会にもしたい」としている。ならば、中国、韓国とも「和解の力」を発信できる関係づくりを急ぐべきだ。
 中韓両国を訪れ、慰霊と併せて謝罪するのが筋である。米国とだけ「和解の力」を発揮する二重基準では、日本は国際社会から信用されない。
 現職首相の真珠湾訪問は初めてである。首相がそれを利用し高い内閣支持率を維持したいと狙うなら、戦没者慰霊の政治利用であり、不謹慎のそしりを免れない。疑念を払拭(ふっしょく)し、歴史に深く刻まれる訪問になるかは、首相が犠牲者に真摯(しんし)に向き合うかにかかっている。