<社説>日ロ首脳会談 領土進展なしは首相の責任


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領による首脳会談は、北方領土の帰属問題で進展がないまま終わった。「国民の大半ががっかりしていると、われわれも心に刻む必要がある」と自民党の二階俊博幹事長が述べたように、領土問題解決への道筋が見いだせなかったことは極めて残念だ。

 今回の会談は、北方四島での「共同経済活動」実現に向けた協議開始については合意した。平和条約締結に向けた信頼醸成のスタートラインの位置付けにとどまったといえる。
 首相は自らの任期中の領土問題解決に意欲を示し、異例のロシア訪問を繰り返し、今回の日本での会談につなげた。5月のロシア・ソチでの会談後には「突破口を開く手応えを得られた」と自信をのぞかせていた。ところが今回の会談後の会見では「解決にはまだまだ困難な道が続く」と述べた。成果ゼロは首相の責任だ。
 今回の会談で首相はプーチン氏との親密な関係をことさら演出した。何度も「ウラジミール」と名前で呼び「国民を代表して君を歓迎したい」と大統領を「君」呼ばわりした。会談で事態打開に期待感を高めたのは首相自身だ。進展が見られなかった詳しい理由を国民に説明すべきだ。
 協議開始に合意した共同経済活動も実現には調整の難航が予想される。政府や民間企業が出資し、合弁事業などを進める同様の構想は、1990年代にもロシア側から提起された。しかしロシアの法制度が適用されるならば、主権を認めることになるため実現に至らなかった。
 声明では適用する法制度に関して「平和条約に関する両国の立場を害する」ことのない「しかるべき法的基盤」を検討するとしている。しかしロシア側は早速、同国の法制度が適用されると説明しており、歩み寄りの道筋は見えない。
 さらに会談の成果文書は「プレス向け声明」にとどまった。「共同宣言」や「共同声明」が強い拘束力を持つのに対し「プレス向け声明」の重みは「それほどない」(政府関係者)とされる。会談結果は首相の外交力のなさを物語っている。
 領土問題は歴史的経緯、国際情勢、国内政治などが複雑に絡み合う。粘り強い外交努力が必要なのは言うまでもない。だが今回の会談結果は、多くの国民が落胆したと言うほかない。