<社説>英のEU離脱 世界経済萎縮を懸念する


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 英国のメイ首相は欧州連合(EU)から完全に離脱する意向を示した。

 米国では保護主義的な貿易政策を唱えるトランプ政権が近く誕生する。英国のEU離脱で世界的に保護主義が強まり、世界経済が萎縮することを懸念する。
 昨年6月に行われたEU離脱の是非を問う英国の国民投票で離脱約52%、残留約48%となり、離脱が決まった。背景には、他のEU諸国からの移民流入と雇用喪失、所得格差拡大に対する不満の高まりがある。米国でトランプ氏が大統領に当選した背景と重なる。
 そもそも所得格差の拡大は1980年代の新自由主義がもたらした産物である。米レーガン政権と英サッチャー政権は富裕層の減税を進めた。富裕層が対象の最高税率を米国は70%から28%に、英国は83%から40%へ下げた。
 その結果、所得と資産が富裕層に集中するようになった。米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、2013年の米国全体の所得のうち、上位3%の富裕層が占める割合は30・5%に達する。英国は14年の統計で上位1%の富裕層の資産規模は下位層55%の資産総額に相当する。
 取り組むべきは、新自由主義の経済政策によって実施された所得税の累進税率の見直しだ。見直しによって得られた財源を使って、国内の貧困対策、雇用政策を充実すべきではないか。
 英国の貿易額のほぼ半分は欧州諸国が相手である。欧州単一市場からの離脱によって移民の流入は止まるかもしれない。しかし、EUに大きく依存している英国経済への影響は避けられない。実際に離脱すれば英経済は通貨ポンドが下落して物価が上昇することで、個人消費が落ち込み、17年以降は減速が予想される。
 英国に展開する日本企業も、関税や規制への対応を迫られることになる。日本貿易振興機構によると、英国に拠点を構える日系企業は879社に上る。離脱によって、英国で生産した製品のEUへの輸出が課税されれば、収益低下は避けられない。日本企業が英国外に移転することになると、英国人の雇用が失われる。英国にとって離脱がマイナスに作用する。
 EU離脱は賢明な選択なのか。英国民はもう一度見極めが必要ではないか。