<社説>米石油管建設推進 沖縄から民主主義再生を


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 市民運動で勝ち取った成果を大統領の一存で踏みにじる。民主主義国家として、あるまじき行為と言うほかない。

 トランプ米大統領が2件の原油パイプライン建設計画を推進する大統領令に署名した。
 ダコタ・パイプラインについては、建設予定地近くに居留地を持つ米先住民スタンディングロック・スー族が「水源を脅かされる」「先祖ゆかりの聖地や遺跡が破壊されている」などと反対してきた。米陸軍省は昨年12月、同省管理区域での工事を許可しないと決めた。市民運動の勝利である。
 それを一顧だにせず、法律と同等の効力を持つ大統領令で瞬時に覆すことに正当性はない。米国の民主主義崩壊の始まりを懸念せざるを得ない。
 トランプ氏は就任演説で「権力を首都ワシントンから、あなた方国民に返還する」と述べた。やっていることは逆である。
 オバマ前政権は環境破壊や地球温暖化につながるとして、パイプライン建設を却下した。トランプ氏は建設によって、雇用創出やガソリン価格抑制による景気浮揚につなげることを優先した。
 雇用を増やすことは大切だ。一方で、世界第2位の温室効果ガス排出国である米国には環境を最大限考慮することが求められる。その視点がトランプ氏には決定的に欠けている。
 米国内で拡大が進む風力や太陽光など再生可能エネルギーに注力することで、雇用を拡大し景気浮揚を図ることは十分可能だろう。そこに踏み出さないのは、化石燃料業界の利益を最優先にしているからではないのか。
 トランプ氏は「偉大な国家」の復活を国民に約束している。「偉大な国家」とは世界に貢献し、尊敬される国である。「米国第一」だけを目的にするトランプ氏の政策は、それには程遠い。
 トランプ氏がスー族の民意を無視したことで、沖縄の民意も顧みられない可能性がある。日本政府による最新鋭の辺野古新基地提供を、トランプ政権が米国の利益になると判断し、早期建設を日本政府に強く迫ることを危惧する。
 日米両政府の強硬姿勢は今に始まったことではない。それをはね返し辺野古新基地建設を両政府に断念させることで、沖縄から民主主義を再生させる運動を広げたい。