<社説>性犯罪の刑法改正 被害者の声最大限反映を


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 政府は性犯罪を厳罰化する刑法改正案を閣議決定した。性犯罪は「魂の殺人」とも言われるほどの残酷な人権侵害である。被害のもたらす影響が長期に及ぶことも考えれば、厳罰化は当然だ。

 改正案は強姦(ごうかん)罪のほか、強制わいせつ罪などの「親告罪」の規定を削除した。加害者を起訴するために被害者の告訴を必要とする親告罪は、被害者の意思を尊重し、プライバシーを保護するためとされてきた。
 だが加害者の処罰を求めるかどうかを、被害者の決断に委ねることは被害者に重い負担を強いることになる。加えて、親告罪であるが故に残虐な犯罪を抑止できていないケースがある。
 県内で昨年発生した米軍属女性暴行殺人事件の被告は、日本の法制度では女性暴行は親告罪で、被害者の通報率も低いことを認識した上で犯行に及んでいる。「逮捕されることは全く心配していなかった」という。
 親告罪が壁となり、罪に問われるべき加害者が起訴されない状況は、新たな被害者を生み出す危険性がある。罪を償わせることは更生させる上でも、社会の安定を保つためにも重要だ。親告罪の規定は、もっと早い段階で削除すべきだったと指摘せざるを得ない。
 非親告罪化されても、被害者のプライバシー保護に十分配慮する必要がある。大きな衝撃を受けた被害者の状態も勘案した適切な対応を捜査当局に求めたい。
 改正案は、強姦罪の名称を「強制性交等罪」に改め、法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げた。被害者に男性を含め、性交類似行為も対象にした。
 親などの「監護者」が影響力を利用して18歳未満の者に性的な行為をすれば、暴行や脅迫がなくても罰することができる「監護者性交等罪」と「監護者わいせつ罪」を新設した。その一方で「強制性交等罪」の成立に暴行や脅迫の存在を必要とする規定を残したことは疑問だ。
 「身も心も凍りついて動けない状態になる」「生命を守るために抵抗できない状況がある」との被害者の声を重く受け止め、法改正に最大限反映させるべきだ。
 被害者の心の傷は厳罰化だけで癒えるものではない。回復を支援する万全な態勢づくりが必要だ。性犯罪被害者の権利回復を第一に取り組むことは、全ての人権侵害を許さない社会の実現につながる。