<社説>泡盛「見える化」 世界展開の契機としたい


この記事を書いた人 琉球新報社

 料理の世界にマリアージュという言葉がある。フランス語で結婚の意味だ。転じて料理とワインなど、相性が良いものの組み合わせによる味の相乗効果を指す。

 沖縄国税事務所などが、泡盛の味わいや香りを49語に分類して図示化したフレーバーホイールを開発した。ホイールを活用すれば、銘柄ごとに異なる風味が一目で分かるなどの効果が期待できる。今以上に素晴らしい泡盛と料理のマリアージュが見つかる可能性が広がる。
 泡盛に関しては学識者らが中心となり、琉球料理と共に世界無形文化遺産への登録を目指す動きがある。ホイールの完成度を高め、充実させることで沖縄文化の発信に貢献することは間違いない。
 消費者にとっても品質の「見える化」は選択の機会を増やし、泡盛の豊かさを実感できる。国内外への販路拡大にも有効だ。
 フレーバーホイールはコーヒー、紅茶などの嗜好(しこう)品、チーズやチョコレートなどの食品といった幅広い分野で活用されている。品質の良しあしを判断するものではなく、味や風味に対して共通認識を得るためのものだ。
 国税事務所が1年以上かけて開発したのも、泡盛に関して、これまで「共通言語」がないからだ。
 古酒を味わうにしても杯から立ち上る香りを楽しむ人もいれば、口に含んだときのまろやかさを楽しむ人もいる。捉え方、表現の仕方は千差万別だ。さらには消費者と生産者、分析する専門家といった立場の違いによって、語る内容は同じでも表現は異なる。
 日本酒やビールは既にフレーバーホイールがあり、品質向上などに役立っている。関係者が共通認識を基に議論できるからだ。
 今後の課題は香りの由来となる化学物質で特定されていないものの解明や生産者への普及が挙げられる。自社の泡盛をどのような層へ売り込むのか、またはどのような料理と組み合わせて拡大していくのか。成分が特定されれば、製造段階で改善でき、泡盛の多様性が増す。ひいては消費者の選択の幅も広がる。
 泡盛を含む沖縄の食文化発展を考えれば、フレーバーホイールは業界だけのものでなく、県民の知的財産と捉えたい。
 泡盛の出荷量は12年連続して減少するなど衰退が指摘されている。新たな知的財産を活用することで、復権につなげたい。