<社説>米軍属女性殺人初公判 罪と正面から向き合え


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 将来ある20歳の女性の命が奪われた痛ましい事件である。被告の権利とはいえ、黙秘権行使は許し難い。

 うるま市で昨年4月、女性会社員を暴行し殺害したとして、殺人罪などに問われた元海兵隊員で当時軍属だったケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告の裁判員裁判初公判が那覇地裁で始まった。
 被告は罪状認否で「殺すつもりはなかった」と述べ、殺人罪の起訴内容を否認した。強姦致死と死体遺棄の罪は認めた。
 その後の被告人質問で、被告は黙秘権を行使した。少なくとも被害女性、遺族に謝罪すべきである。事件から1年半余たっても、被告は反省していないと断じるしかない。
 被告は今年2月、米軍準機関紙「星条旗」に寄せた手記で、日本の法制度では女性暴行は親告罪で、被害者による通報率も低いとして「逮捕されることについては全く心配していなかった」とした。
 逮捕されなければ、何をしてもいいと言っているも同然である。被告の順法精神と人権意識の欠如の延長線上に、黙秘権の行使があるのではないか。
 殺意があると判断されなければ、人を殺しても殺人罪には問われない。強姦致死罪ならば、無期懲役などではなく、有期刑に処される。そのようなことを考えて殺意を否認し、黙秘したならば、言語道断である。
 被害女性の父親がメッセージや手記で解明を求めた「なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか」の問い掛けに、被告は丁寧に答えるべきだ。
 被告は自らの欲望を満たすために女性を襲い、将来を奪った。その事実と正面から向き合う責任があることを深く認識すべきだ。なすべきは保身を図ることではなく、事実を明らかにし、謝罪することである。
 検察側は、被告が女性の首を数回刺していることから「殺意はあった」と指摘した。遺体を運ぶためにスーツケースを用意し、犯行後はホテルで服を着替えており、計画的な犯行だったとした。
 双方の主張は対立しているが、事実は一つしかない。裁判員は被告の殺意の有無を的確に判断してほしい。
 被告は手記で「あの時居合わせた彼女(被害女性)が悪かった」とするなど、罪の意識が希薄である。遺族が納得する判決を期待したい。
 将来を奪われた女性の無念さ、遺族の深い悲しみに多くの県民が胸を痛めた。このような痛ましい事件が二度とあってはならない。実効性ある再発防止策は、被害女性の父親が求める「一日も早い基地の撤去」である。
 事件は米軍基地の存在によって、誰が被害者になってもおかしくない状況にあることを改めて突き付けた。放置し続ける政府は、大きな責任があることを自覚すべきだ。

英文へ→U.S. base worker should face up to his crime in court