新政権 尖閣問題/互恵関係構築を目指せ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 自民党は政権公約で「国民の生命・領土・美しい海を断固として守り抜く」ことを掲げた。安倍晋三総裁も尖閣諸島に「公務員常駐案」を掲げ、選挙後の会見でも「交渉の余地はない」と述べ、対中国で強硬な姿勢を打ち出している。しかし、それは東アジアを緊張と対立の時代に推し進めることになりかねない。

 安倍氏は6年前の自身を思い起こしてほしい。首相就任後、最初の外国訪問地に中国を選んだ。戦後の歴代首相では安倍氏が初めてだ。前首相の小泉純一郎氏の靖国神社参拝で1年半途絶えていた首脳会談を実現させ、関係修復の一歩を踏み出すことに成功したのではなかったか。
 この会談で「日中関係をさらに高度な次元に高め、共通の戦略的利益に立脚した互恵関係構築に努力する」との共同発表にこぎ着け、安倍氏の訪問は中国側から「氷を破る旅」と高く評価された。あの時の方針を深化させ、日中を平和的関係に戻すことこそ、新首相として果たすべき任務だ。
 日中国交回復40年の今年は本来、双方の政府や国民同士が互いの関係の重要性を確認する絶好の機会だった。ところが石原慎太郎都知事(当時)が都による尖閣諸島買い上げを表明し、政府による国有化へとつながった。尖閣をめぐって日中関係がかつてない険悪な状態にあることは極めて残念だ。
 自民党が「政権担当能力なき政党に日本を任せられない」と民主党政権の外交失敗を批判することは正論だ。しかし尖閣に公務員を常駐させたり、船だまり建設など、中国をさらに刺激するような方向にかじを切ることは適切ではない。
 中国共産党機関紙の人民日報は衆院選後、尖閣問題について「争いの激化を回避し、共に危機を管理しよう」と日本側に呼び掛けている。日本側も衝突を避け、日中双方の信頼関係を取り戻すことに力を注ぐべきだ。
 中国は世界第2位の経済大国に成長した。日本は中国との投資や技術支援などで経済協力を深めている。日中の貿易総額はこの10年で3・5倍に拡大し、中国は最大の貿易相手国となった。安倍政権は領土問題をひとまず「棚上げ」し、冷却期間を置きながら互恵関係構築に努力を傾けるべきだ。東アジア全体の平和と安定に寄与することで国際社会の信頼へ向け、かじを取るのが賢明な選択だと確信する。