安倍首相直接要請/民主国家を取り戻せ 普天間閉鎖で仕切り直しを


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 沖縄の未来は自らの行動で変えていく。その強固な意思が日本の政治中枢で示された。
 東京の青く澄んだ寒空の下、県内の41全市町村長と議会議長ら総勢約150人の要請団が永田町、霞が関を駆け巡った。
 海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備中止と、米軍普天間飛行場の閉鎖・撤去を求めるオール沖縄の民意を安倍晋三首相ら主要閣僚にぶつけた。
 都道府県単位の全市町村長による総行動は例がない。沖縄の自己決定権を取り戻す不退転の決意が示された節目の日として、歴史に刻まれることになるだろう。

■欺瞞を問う
 小異を超え、政党や首長らが大同団結して掲げた二つの要求は最低限のものだ。沖縄を踏み台に、経済的繁栄を謳歌(おうか)してきた全国民への痛烈な問い掛けでもある。
 国土の0・6%しかない基地の島に、安全保障の過重な負担を押し付け続けるこの国の欺瞞(ぎまん)を問い、民主主義が機能するよう求める公憤と理解されるべきだ。
 沖縄の民意は分水嶺を越え、「もはや後戻りしない、できない」(喜納昌春県議会議長)ことが一層鮮明になった。
 当初は困難視されていた安倍首相との面談が実現し、要請団から直接、建白書が手渡された。
 「誠心誠意向き合い、沖縄の理解を得たい」と述べてきた安倍首相に、面談を避ける選択肢はなかったのだろう。沖縄の民意の力が増したことの表れとみていい。
 首相は「皆さんの意見に耳を傾けながら、基地負担軽減を含め頑張りたい」と思わせぶりに語ったが、具体的な返答はなかった。
 同じ日の所信表明演説で、安倍首相は緊密な日米同盟の復活を内外に示すとし、「普天間飛行場の移設をはじめとする沖縄の負担の軽減に全力で取り組む」と述べ、県内移設推進を強くにじませた。
 安倍首相は、島ぐるみの民意を聞き置く程度にとどめることで、沖縄の疎外感と失望感を高めてきた歴代政権の失政と一線を画すべきだ。
 沖縄振興予算をアメにして、沖縄を懐柔する補償型の基地維持政策は、県民にもう通用しない。
 政権発足から日が浅いだけに、まだ外交政策を改める時間的猶予はある。首相は、オスプレイ配備撤回、普天間飛行場の閉鎖・撤去に向け、米国と仕切り直すことこそ、日米関係の不安定要因を取り除けることに気付くべきだ。
 2月に予定されるオバマ米大統領との首脳会談で、安倍首相は、正面からオスプレイと普天間問題の大胆な見直しに臨んでほしい。

■屋良さんの悲願
 要請や記者会見、総括集会の場で、各界代表から放たれる言葉は研ぎ澄まされていた。沖縄と、日本政府と本土の国民の関係性を突く鋭利な切れ味を増していた。
 翁長雄志那覇市長は、県民の結束の力として、「銃剣とブルドーザー」で強制接収した土地を二束三文の地代で売り渡すよう迫った米軍にあらがい、阻止した四原則完徹運動を挙げた。その上で、沖縄の民意がないがしろにされる状況について、「アジアや世界から信頼される品格ある国、国民と言えるのか」と問い掛けた。
 「祖国復帰運動」を引っ張り、初代県知事に就いた屋良朝苗さんは「新沖縄県発足式典」で、沖縄が本土の安全や経済繁栄の踏み石にされる構図を変える決意をこうにじませていた。
 「沖縄が歴史上、常に手段として利用されてきたことを排除して、平和で豊かで希望のもてる県づくりに全力を挙げたい」
 屋良さんの悲願は本土復帰から40年の節目を迎えても実らず、沖縄の試練は続く。だが、もはや沖縄の民意をないがしろにした沖縄の基地問題の解決はない。
 米国に追従するばかりの思考停止から脱することなく、「落としどころ」を沖縄に求めてはならない。日本政府が、そして本土の国民こそが変わるべきなのだ。