施政方針演説 「強い国」が国民の願いか


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 安倍晋三首相が第2次安倍内閣発足後、初の施政方針演説を行った。明治の啓蒙思想家、福沢諭吉の言葉「一身独立して一国独立する」を引き合いに、個人の自立、未来志向の姿勢が「強い国」の確立に不可欠なことを強調した。

 首相は日本社会の難題に言及しつつ「共助」「公助」の精神の意義も説いており、社会的弱者への配慮も一定程度は感じられる。ただ、一昔前の「自己責任」論や「勝ち組、負け組」の価値観と重なり、危うさも禁じ得ない。追求すべき国家像は「強い国」なのか、「人に優しい国」なのか。首相と与野党に徹底論議を求めたい。

疑問多いTPP

 米軍普天間飛行場の返還問題について、安倍首相は県民との信頼関係を構築しながら、普天間の固定化回避を優先し、名護市辺野古移設を進める意向を鮮明にした。
 先に県議会議長や県内41市町村の首長らが普天間の閉鎖・撤去、オスプレイ配備撤回などを求める「建白書」を首相に提出したが、施政方針は事実上これを無視した。到底容認できない。首相は民意を尊重し日米合意を見直すべきだ。
 環太平洋連携協定(TPP)について、安倍氏は衆院選で「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加反対と公約した。だが、施政方針ではオバマ米大統領との会談で「聖域なき関税撤廃」は前提ではないと確認したとし、今後は「政府の責任で判断する」と、交渉参加を事実上表明した。
 TPP参加となれば、国内の農業や医療をはじめ社会経済全般で激変が予想されるにもかかわらず、
国内の議論は低調だ。これは、TPP交渉が交渉参加国以外に情報を開示していないことに起因する。
 交渉の可視化など公明正大な議論が担保されない中、拙速な政治決断は禁物だ。TPPに対する国民の疑問を払拭(ふっしょく)するのが先決だ。
 首相は東日本大震災からの復興に注力する考えだ。いまだ多くの被
災者が避難生活を余儀なくされ、暮らしも経済も再建には程遠い。「復興加速」は当然だろう。
 その一方で福島第1原発事故の反省に立ち、原子力規制委員会の下で「安全性を高める新たな安全文化をつくる」と説明した上で、原発再稼働を打ち出した。
 最近になって、東京電力が国会事故調査委員会の現場調査を一部妨害したことが明らかになった。事故総括が不十分なままの再稼働などあり得ない話だ。安倍政権は本当に「フクシマ」を教訓化しているのか。脱原発など未来志向のエネルギー政策こそ加速すべきだ。

憲法擁護義務

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」を受けて円安が進んで輸出産業の業績に改善傾向が見られるが、電気、ガス、小麦など輸入に頼る生活必需品は逆に値上げが必至で家計への悪影響が懸念される。
 アベノミクスの「三本の矢」のうち、大胆な金融緩和と機動的な財政出動は具体化したが、三つ目の成長戦略は年央をめどにとりまめる方針が示されたにすぎない。
 施政方針で「攻めの農業政策」「人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用した再生医療・創薬」など成長分野が例示されたが、問題は成長戦略の機動性、実効性だ。もたつくと国民生活はさらに疲弊しよう。国内産業と雇用を再生させる成長戦略の策定を急ぐべきだ。
 尖閣諸島問題で悪化した中国との関係については、軍事挑発の自制を促す一方、「日中関係は最も重要な2国間関係の一つ」と、対話の姿勢も示した。武力を使わず国民や国家主権を守るのが最高の外交だ。尖閣問題の平和的解決にこそ首相の指導力を発揮してほしい。
 安倍首相は宿願の憲法改正については、夏の参院選を意識してか刺激的な表現を避け、国民的議論の呼び掛けにとどめた。憲法99条が閣僚らに求める憲法の尊重擁護義務を順守すべきだ。憲法が根本から破壊される「壊憲」を危惧する声も高まっているが、首相が率先して平和憲法を壊すなど断じてあってはならない。