八重山教科書問題 強制避け民主的再協議を


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 文部科学省の義家弘介政務官が竹富町教育委員会に対し、中学公民教科書について八重山採択地区協議会の答申通りに育鵬社版を採択し使用するよう直接指導した。県教委にも同様に、竹富町教委を指導するよう要請した。

 2011年に八重山採択地区協は保守色の濃い育鵬社版の公民教科書を選定・答申。石垣市と与那国町の教委は育鵬社版を採択したが、竹富町教委は東京書籍版を採択。無償給付の対象にならなかったため、竹富町教委は12年度は第三者の寄付で東京書籍版を購入して生徒に配布する異例の事態となっている。
 今回の指導で、義家氏は地方教育行政法などに基づく是正要求も検討する考えを示した。しかし、強硬姿勢は事態を悪化させ混乱を深めるだけだと憂慮する。
 安倍政権らしさを鮮明にしたい思惑もあるのだろうが、政府は竹富町教委や県教委の言い分もしっかり聞き、慎重に対応すべきだ。
 義家氏は、竹富町教委の判断は同一地区内で同じ教科書を採択することを定めた教科書無償措置法に違反すると指摘した。
 しかし一方で、地教行法は各教委の教科書採択権を定めており、竹富町教委は採択権の優位性を主張している。法的な矛盾がある中で、一方の法律を根拠に育鵬社版の採択を迫るのは強引すぎる。
 義家氏は無償措置法が地教行法に優先するとの見解も示したが、その根拠も明白ではない。
 この問題では、石垣市や与那国町の住民らが東京書籍版の無償給付などを求めた訴訟の判決が昨年12月にあり、那覇地裁は原告の訴えを退けたが、無償措置法と地教行法のどちらに優位性があるのかの司法判断は避けている。
 そもそもこの問題は、八重山採択地区協での選定の際に、教科書の順位付けの廃止や協議会の非公開・無記名投票など、強引で不明朗な手法が採られたことが発端であることを銘記すべきだ。
 しかも、育鵬社版公民教科書に関しては人権や憲法などの記述で多くの疑問点が指摘されており、別の教科書を使用させたいとして不採択にした竹富町教委の判断は理解できる。
 竹富町が無償給付対象外なのは憲法上も問題含みで、解消を図る必要がある。政府が同一教科書でなければ無償にできないというのなら、一本化に向け民主的な手法で再協議するしかあるまい。