元裁判員の提訴 抜本的な制度見直しを

 裁判員を務めて急性ストレス障害になった福島県の60代女性が7日、国に慰謝料など200万円の損害賠償を求めて提訴した。

 女性は、強盗殺人事件で死刑判決を言い渡した3月の福島地裁郡山支部の裁判員裁判で裁判員を務めた。裁判員制度を「意に反する苦役」として違憲性を主張。職業選択の自由や個人の尊重などの憲法理念にも反すると指摘している。
 国は訴えに、真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。同時に法務省が現在進める裁判員制度の運用見直しや法改正作業も、訴状や国民の多様な意見を踏まえ、慎重を期してほしい。
 女性は評議を含む9日間の全日程に参加。殺害現場のカラー写真がモニターに映った3月4日の審理で休廷中に嘔吐(おうと)。頭がぼんやりして食事がのどを通らず、夜も写真などがフラッシュバックして就寝中に何度も目が覚めるなどの症状が出た。現在も治療中という。
 裁判員法では呼び出しに応じない裁判員候補者に過料を科すことができる。被告に適正な刑事罰を科すためとは言え、心身に失調を来すほどの生々しい犯罪の証拠、残酷な写真などを全て直視せよと素人の裁判員に強いるのは酷だ。
 福島の判決後の会見では、複数の裁判員経験者が精神的負担の大きさを指摘。国は審理で裁判員の負担軽減が配慮されたか徹底検証すべきだ。精神的負担の軽減や治療など支援策の充実も必要だ。
 裁判員経験者が次々と心身の異常を訴えるようだと、制度の信頼が損なわれる。同時に公正な裁判を受ける被告の権利侵害という、別の問題も引き起こしかねない。
 裁判員法は抜本的改正が急務だ。裁判員制度の見直しを議論している法務省の検討会が今年3月にまとめた報告書(案)は、審理が「極めて長期間」に及ぶ事件を制度の対象から除外できるようにするなどの改善点を列記した。
 一方、裁判員の精神的負担を和らげる観点から焦点となっていた守秘義務の緩和については「現状維持」が多数意見を占めた。裁判員の負担が大きい死刑求刑事件や、被害者のプライバシー保護が問題となる性犯罪を対象から除外することには消極意見が大勢だった。
 検討会の姿は制度の抜本見直しに消極的と映る。裁判員裁判が正常に機能するか否かは、司法改革の核心だ。持続可能な裁判制度の再構築に向け国民論議が不可欠だ。